平成16年度採択案件/ビジネス提案型(旧制度)

共同研究実施体制

ユニットリーダー:大学宇宙工学コンソーシアム(東京都) 副理事長 中須賀 真一
ユニットメンバー:東京大学 航空宇宙工学専攻 酒匂 信匡
JAXA研究者:産学官連携部 主任 堀田 成章


共同研究の背景及び概要

CubeSat(10cm立方、1kg)級超小型衛星を用いた低コスト・迅速な宇宙実証・宇宙利用プロセスの確立を目指す。 打上げも含めたミッションコストを~1億円程度に、リードタイムを~1.5年程度に短縮することにより宇宙利用の「しきい」を根本的に下げ、新規技術の迅速な宇宙実証、新しい宇宙利用法の創出を目指すプロジェクトである。


INTERVIEW

インタビュー

小型衛星のような小さな宇宙ビジネスからスタートしよう。

東京大学
大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻
中須賀 真一教授

「宇宙へのしきい」を下げ、宇宙をテーマにした新しいビジネス、技術開発の支援を目的に発足した『宇宙オープンラボ』。平成16年度の宇宙パートナー制度では、東京大学・中須賀真一教授グループによる『超小型衛星による低コスト・迅速な宇宙実証・利用プロセス確立プロジェクト』が選ばれています。
第1回目のスペシャルインタビューでは、超小型衛星プロジェクトに取り組む中須賀教授の研究室を訪れ、超小型衛星や宇宙ビジネスについて詳しくお話を伺いました。


01. 時間とお金の枠を決めて、その中でできる衛星開発を追及する。


JAXA:中須賀研究室では学生主導の超小型衛星プロジェクトを多数行っていますが、具体的な内容について教えてください。

中須賀:標準的な大型衛星は重さが約1トン近くありますが、僕らが大学で狙うべきは10キロ以下の超小型衛星だと考えています。大型の衛星だと実験に大きな装置が必要となり、運ぶのも大変だし、費用もかかる。大型の衛星は1機・数百億円することもあり、打ち上げロケットの費用も考えると1千億円を超えることもあります。ところが、超小型の衛星ならば大学の設備で実験もできるし、安く早く衛星を作ることができます。超小型であれば1機・数千万円で作れますし、人件費等を含めても5~6千万円程度で製造が可能です。さらに1年半から2年半で製造できるという時間的メリットが、宇宙開発を変えていくのではないかと思っています。

そんな小さい衛星では何もできないのではという意見もありますが、僕らは最初から10キロ以下とサイズを決めて、その中でどこまでできるかを考えています。当然、大きくすれば様々なことが可能になりますが、コストも高くなるし、時間もかかる。そうではなく、時間とお金というサイズを決めて、その中でできることを追求するというのが僕らの姿勢です。

02. 「宇宙で何かをやりたい」と考える人を100倍にしたい。


JAXA:学生が自分たちの力で衛星を作ることができる。教育面でも意義がありますね。

中須賀:工学教育で重要なことは「作ったモノが実際の世界で動いて、どうなるか」を見届けることです。設計するだけなら簡単ですし、その設計を評価するのは学校の先生ですからね。でも、先生が正しいかなんて分からない。だけど、実際にモノを作ってみると、きちんと作ったものはちゃんと動くし、手を抜いたモノは上手く動かない。こんなにフェアで正直で厳しい、はっきりと成否を教えてくれる先生はいないでしょう。工学教育では、こうした経験が非常に重要なのです。
コンピュータやロボットの世界なら、こうした実験の場も多いでしょうが、宇宙となるとそうはいかない。まず学生が衛星を作るなんて誰も考えていないし、何年もかかってしまう。設計・製作・試験・改修・動作検証・結果解析まで、すべてを経験して初めて「工学の教育」は完結するんです。こうした工学教育を大学・大学院生の2~3年間に経験させるためには、小型衛星は非常によい題材となります。さらに小型衛星の研究を1年以内という短期間で結果を出せるのが、空き缶を衛星にする『CanSat Project』なのです。こうしたプロジェクトを何回か学生に経験させていけば、技術面だけでなくプロジェクトマネジメントの面においても、工学者・エンジニアとして育ってくる。こうした教育面も僕たちの活動の柱だと思っています。

JAXA:中須賀先生が考える「小型衛星」と「リモートセンシング」を利用した宇宙ビジネスについて教えてください。

中須賀:中須賀 僕らがやりたいと思っているのは、「宇宙で何かをやりたい」と考える人の数を100倍にしたい"ということ。今、宇宙って実はあまり利用法がない。通信や放送といっても、放送は何百チャンネルあっても、そんなに見ない。通信だって衛星経由より海底ケーブルの光の方が伝送速度は速い。リモートセンシングだって、1m四方の分解度の高い撮影は費用が高すぎるし、衛星の数が少ないので自分の欲しい場所は撮ってもらえない。では、10~20m四方の分解度だけれども頻繁に撮れて、おまけに撮影費用が安いリモートセンシングを作ったらどうでしょうか? それを利用したビジネスがきっと生まれるはずです。そのために"安くて頻繁に届けられるシステムを!"これが僕らのビジネスのコンセプトなんです。一種のインフラというか、コンテンツを作っているんですね。

実は小型衛星にかかる費用は、企業の広告費と同じくらいのコストなんです。実際に『CubeSat』を打ち上げた時、30社程度の企業から打診がありました。やっぱり安価だし、自分たちが動かなくても研究室が全部やってくれる。こうした研究室と組むと、数千万円で自分たちの衛星を打ち上げられるというのは、宇宙で何かやりたいと思っている企業にはすごい魅力なのだと思います。例えば自分たちの作ったグッズを載せて打ち上げたいといった企業もあるでしょう。数千万円の費用であれば企業には広い応用の場面が生まれるので、僕らが思いつかないニーズがどんどん出てくる。それがうれしいですし、僕らはそれを狙っているんですね。

03. まずは宇宙で何かをやって、宇宙ビジネスの規模を100倍に!


JAXA:中須賀先生が宇宙ビジネスを推進するにあたって、障害となっていることはありますか?

中須賀:ズバリ、周波数獲得が大きな問題です。衛星は周波数がないと口を閉じてる状態で、目で見ることができても何も情報を送れません。現在、周波数を取得するために総務省にお願いし、アレンジや国際的な調整をしてもらおうとしています。ですが、申請が多すぎますし、希望の周波数が他国とバッティングしていたら、その国々と調整をしなければならない。これが大変なんです。みんな衛星を打ち上げる時は、こうした申請や調整作業を自分たちでやっているんですね。

そこで他国はどうなのかと思い、イギリスのサレー衛星科学技術研究所(以下SSTL)に聞いてみたら、「なんで周波数なんかで悩んでるんだ?」と言われました。イギリスという国は周波数を重要視しているし、周波数の取得は国の仕事だという認識が強いから、国が躍起になって動いてくれるようです。ところが日本という国の宇宙関係者には周波数が大事という認識がない。地上波だとそうではないんですが。
 そのため、僕らは今アマチュア無線を使っています。アマチュア無線ならがんばれば周波数はとれるのですが、商業目的ではないのでビジネスには利用できない。通信に関係する実験しかできないんですね。今後、規制緩和や一時レンタルなどの配慮があれば良いのですが......まだまだ周波数の重要性に、日本の宇宙村は気づいていないんです。

JAXA:今後の宇宙ビジネスへの展望について聞かせてください。

中須賀:今後の宇宙ビジネスは、2つの道筋が考えられます。ひとつは、国中心の宇宙開発・国が音頭を取る宇宙ビジネスを今のように続けていくケース。この場合は、日本での宇宙ビジネスそのものが縮んで消えていってしまう可能性が高いと思います。民間が活性化しません。もうひとつは、小さな規模でも安く早く宇宙で何かをやって、その成功例が増えてくることにより宇宙に参加する人の数が100倍になるケース。日本人の国民性で、初めは少ない投資で様子を見ますが、いけると判断したら大きな投資に結びつけます。だから、その国民性に合ったビジネス展開が必要なんですね。そのための第一歩が僕らの衛星です。初めは小さな衛星かもしれませんが、成功すれば次は大きな衛星を使いたいと思うようになっていきます。だから、「我々の小さな衛星を使って試してみてください」というスタンスが必要なのです。今いきなり何百億円の衛星を売ろうとしても、まず誰も買ってくれないでしょう。何百億円もする衛星を買うのは国家や宇宙業界ぐらいですが、国や宇宙業界からは新しい宇宙利用のアイデアは出てきません。

だからこそ、宇宙関係者だけの壁を超えて、どれだけ多くの人を巻き込むかが鍵になるんです。一般の人に「100億円の初期投資で結果が出るのは10年後です」といったら相手にされないでしょう。ベンチャーキャピタルも論外だと言います。宇宙の「お金」と「時間の流れ」の大きさ・遅さを感覚で理解できるのは、まだまだごく一部の人なんです。その大きさ・遅さがある限り、宇宙ビジネスに一般の人たちは入って来れない。今宇宙に向いていない一般の人を振り向かせるためには、小型衛星のような小さなビジネスからスタートする必要があるのです。

中須賀 真一ナカスカ シンイチ

1961年 大阪府生まれ
1983年 東京大学工学部航空学科卒業後、同大学院へ
1988年 大学院博士課程修了後、日本アイ・ビー・エムに就職
1990年 学問の道に戻り、東京大学航空学科 講師、同大学先端科学技術研究センター 助教授、アメリカでの客員研究員
2004年 東京大学航空宇宙工学専攻 教授に就任

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