J-SPARC 宇宙イノベーションパートナーシップ

JAXA
宇宙飛行機開発で宇宙をもっと身近に 
名古屋発の独自技術が拓く新しい未来 

有翼サブオービタル事業

民間主導で「宇宙飛行機(スペースプレーン)」の開発などを行うPDエアロスペース株式会社(名古屋市)。「宇宙をもっと身近に」をステートメントに掲げ、「民需」としての宇宙利用の拡大を目指す企業です。2012年、パルスデトネーションエンジンをベースとした、ジェットエンジンとロケットエンジンの二つの機能を持つ「燃焼モード切替エンジン」の特許を取得。その技術力が各方面からの注目を集める企業は、どのような想いで事業に取り組んでいるのか。PDエアロスペース株式会社 代表取締役社長・最高技術責任者の緒川修治氏(以下、緒川氏)と、JAXA航空技術部門推進技術研究ユニット研究計画マネージャー・田口秀之(以下、田口)が対談しました。

宇宙飛行が身近な未来

PDエアロスペース(株)
代表取締役社長・最高技術責任者
 緒川修治氏

緒川氏:宇宙飛行には、サブオービタルとオービタルという二つの飛行形態があります。サブオービタルは、地上から打ち上げられ宇宙に到達しても、地球を周回せずに再び地上に降りてくる、いわばボールを空に投げて落ちてくるようなイメージの飛行です。一方のオービタルは、人工衛星のように、地上から打ち上げられ、地球の軌道を周回する飛行です。

弊社は、サブオービタル飛行で使用する機体:サブオービタル機について、10年にわたり研究を続けています。これが現在の事業の柱となります。そのサブオービタル機を用い、小型衛星を周回飛行(オービタル飛行)させる宇宙輸送も、我々の事業範囲に入ります。また、サブオービタル機を有人化させることで、一般の方が宇宙旅行に行けるようにすることも弊社の事業です。
弊社では、宇宙旅行が身近となる未来を見据え、旅客機と同じように、一般の空港から宇宙へ行ける、離着陸できるような仕組みにすることが、ユーザーフレンドリーだろうと考えています。

そうした考えから、これまでにない新しいコンセプトの機体開発をスタートしました。

そのキーとなるのが、ジェットエンジンとロケットエンジンを、一つのエンジン内で切り替えて使える仕組みの“ジェット/ロケット燃焼モード切替エンジン”です。現在、実証実験を進めているところなのですが、ロケットモードで飛行する速度:マッハ4の環境は簡単には作れません。その実験環境が整っているのが、JAXA 田口さんのグループです。

開発中のジェット/ロケット燃焼モード切替エンジン

JAXA 航空技術部門 推進技術研究ユニット 
研究計画マネージャー・共創メンバー 
田口秀之

田口:私たちのグループは、日本とアメリカを2時間で飛ぶ「極超音速旅客機」の研究を行っています。音の速さのおよそ5倍、つまりマッハ5で飛ぶことが目標です。一方、高度100キロまで到達するサブオービタル機の最高速度は、マッハ4程度。そのため、エンジンや機体を開発する上で共通する技術は多くあります。

すでにJAXAで実証に成功した極超音速予冷ターボジェットエンジン(静止状態からマッハ5まで連続して作動できる)や極超音速旅客機の機体の設計技術など、PDエアロスペースさんに今まで蓄積した技術を提供し、飛行実験の成功が早まればと考えております。

また、現在は、JAXAの既存ロケットを使用して極超音速の飛行実験する準備をしています。これは、サブオービタル飛行で高度100キロメートルまで機体を上げた後に落下させ、マッハ5まで加速させるというもの。この実験で得られる技術成果は緒川さんの事業にもフィードバックできると思いますし、他のサブオービタル事業を計画している日本の企業の皆様にも、ご提供できるようなものになると考えています。

緒川氏:J-SPARCは、JAXAが培った技術の民間転用を進めていく制度です。我々としては、JAXAの技術成果や試験設備を使わせていただくことで、機体設計やテスト環境を作り上げていくことができるようになる。開発をスピードアップさせる上で、大変助かっています。我々は参加してまだ半年強ですが、密な関係を築いてくださるおかげで開発も順調に進んでいます。非常に心強い制度です。

宇宙輸送に向けた技術開発

緒川氏:私が着用している、この「ツナギ」には、スポンサー企業さんのロゴが付いています。地元名古屋の小さな企業のオーナーの方々が、男気で私を応援するためスポンサーになってくれたのが始まりでした。その後、ある大きなビジネスコンテストに参加したところ、優勝は出来なかったものの、その時、審査委員長をしていた H.I.S.代表取締役社長の澤田秀雄さんが関心を示してくださり、スポンサーとして支援してくれることになりました。

日本でも、民間宇宙ビジネスが大きな転換期を迎えたのは、2015年ごろです。海外のように、20億円、30億円といった大きなリスクマネー(投資)がベンチャー企業に入るようになりました。そうした中、ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長の片野坂真哉さんが、雑誌の対談記事で「将来は、宇宙を飛ぶ会社になる」とおっしゃっているのを偶然目にし、事業投資をお願いしに行ったところ、二つ返事でOKを頂けました。同じタイミングで、これまでスポンサーだったH.I.S.澤田社長に事業投資へ切り替えて頂くことをお願いし、OKを頂きました。

我々3社が目指すのは、宇宙旅行と、その先にある宇宙輸送事業全般に向けた技術開発です。ビジネスとしてだけでなく、「宇宙に行ってみたい」「宇宙から地球を見てみたい」というみんなの思いを一緒に達成して行きたいと考えています。

2016年12月1日 共同記者会見の様子:
左からH.I.S.代表取締役会長券社長 澤田氏、緒川氏、ANAホールディングス片野坂氏

お茶の間に宇宙を伝える

緒川氏:宇宙旅行のチケットは、現時点では1人2500万円と高額ですが、弊社は「庶民の宇宙旅行」を掲げています。宇宙は、国や、一部のお金持ちのものではなく、宇宙に行きたいと思っている人たちのものだと思っています。「今年の夏休みはヨーロッパに行く? それとも宇宙に行く?」と選べるような未来を作っていきたいです。

田口:世界中のベンチャー企業がサブオービタル飛行にチャレンジしていますが、その先に見据えているのは大陸間輸送です。例えば、出張利用で日本からアメリカやヨーロッパまで2時間ほどで飛べる飛行機が実現すれば、現在旅客機のファーストクラスやビジネスクラスを利用している方々が乗り換える可能性は高い。それだけでも巨大な市場になり得るわけです。

他方、いきなりそんな飛行機を作るのには、大きなリスクも伴います。そのため、ベンチャー企業の皆様が最初のステップとして取り組んでいるのが、緒川さんが開発されているような小型のサブオービタル機となります。これがまず現実的なステップだと思います。個人的にはサブオービタル飛行が実現したら、宇宙から自分の故郷を見てみたいですね。

PDエアロスペース社のサブオービタル機 イメージ

日本の技術を還元したい

緒川氏:やはり国民の皆さんにとって、「宇宙」といえば JAXA なんです。これはもう民間がどれだけ逆立ちしてもかなわない技術とブランドで、JAXAと一緒に研究開発をしているということが我々にとって、大きなアドバンテージであり、ステータスでもあります。そのため、J-SPARCのような官民のコラボレーションによる相乗効果を、積極的に活用していきたいと考えています。

今も、天気予報やGPSなど、宇宙は広く使われていますが、より一層アクティブな状態で宇宙と接することができるようにしたい。JAXAさんと連携して、そのような社会を実現したいと強く思っています。

「お茶の間に宇宙を届ける」ような、テレビを見ながら、普段の生活をしながら、宇宙を感じられるような世界、時代を作っていきたい。民間企業だからこそ、できることは数多くあると思います。

JAXAさんが培った「日本の技術」を民間が活用できる状況が芽吹いてきています。この「日本の技術」を、我々が自分たちの事業を通して、一般の方々に伝え、還元していく役割を担っていきたいと思っています。

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