高度な5軸加工の技術を武器に
様々な衛星用部品を手掛ける

原田精機は航空・宇宙・防衛分野の開発業務を行う企業として、2007年に母体となる原田精機工業から分離・独立して設立された。社員22人は全員、原田精機工業と兼務である。

母体となった原田精機工業はもともと自動車分野用の専用機のメーカーで、次第に試作にも進出、5軸同時加工などの高度な切削加工を得意としており、原田精機もその技術を生かして人工衛星用部品の筐体や駆動体を中心に様々な部品の加工を手掛けている。

現在、原田精機と原田精機工業を合わせグループ全体の売り上げは約6億円。宇宙機器事業の売り上げ比率は35%を占める。

現在は宇宙分野への進出を図る浜松地域の企業の力を結集して、ローバー(惑星探査用車両)や超小型衛星、宇宙用小型望遠鏡などの開発にも挑戦している。

2009年1月から稼働を始めた述べ床面積約1万m3の本社工場。室内の温度上昇を抑えるため、外壁にはロケットに使われる特殊な断熱材を使用している。

現在、ハイブリッドテレスコープを開発中。原田精機が開発を担当し、光産業創成大学院大学と連携して事業を進めている。

同社が保有する工作機械の中で最も台数が多いのがMC(マシニングセンター)だ。左は5軸同軸制御のMC、右は3軸制御のMCの加工状況。

旋盤加工ライン。写真では左側はNC旋盤、右側は汎用旋盤で、1人の担当者が両方の機械を使って仕上げていく。

5軸同時制御の精密MCなど、高精度な工作機械がズラリと並ぶ精密加工室。

放電加工室。他の方法では加工が難しい場合にはワイヤー放電加工機を利用する。

研磨工程。寸法を測定しながら研磨を繰り返し、必要な精度を得る。

高精度な寸法検査に欠かせない3次元測定機。検査室には、写真のドイツ・カールツァイスのシステム制御の3次元測定機以外に、もう1台の3次元測定機を備えている。

同社が試作したローバー(惑星探査用車両)。同社はこれ以外に、無人のローバーも試作している。

原田精機株式会社

本社所在地 静岡県浜松市
設立年 2007年
主な事業所 本社工場(浜松市)
これまで手がけた
主な宇宙関連製品
人工衛星の各種部品、ローバー、超小型衛星、地球観測用小型望遠鏡
企業HP http://www.haradaseiki.co.jp/

INTERVIEW

インタビュー

衛星の部品構造から始め
ローバーや超小型衛星などの
開発にも挑戦しています

社長
原田浩利

原田精機という会社を紹介してください。

原田精機の母体は、私の父が創業した原田精機工業という会社です。私は原田精機工業の専務も兼務しています。
原田精機工業は、自動車分野の専用加工機を作る会社としてスタートしました。自動車部品を製造する加工機を手掛けるうちに、自動車部品の試作も請け負うようになりました。いわゆる「0次試作」と呼ばれる、開発の最初の段階の試作です。
その後、航空・宇宙・防衛分野の仕事も手掛けるようになり、その分野に特化する会社として2007年に原田精機工業から分離させて設立したのが原田精機です。

原田精機工業、原田精機の特徴はどんなところですか?

原田精機工業は、高度な試作に対応するため、自由曲面を切削できる5軸加工に早くから投資していました。高価な5軸加工機を導入し、価格的にも能力的にも中小企業にはムリだと周囲からいわれながらも、本格的な3次元CAD/CAM(コンピューター援用設計/加工)システムの「CATIA」をいち早く導入したのです。1990年頃のことです。
ただ、3次元の形状データをCAD/CAMシステムに放り込めば3次元形状の切削ができる、というものではありません。プロの目に耐える加工にもっていくには相当のノウハウの蓄積が必要です。地道に同時5軸加工の技術を積み上げいった結果、次第にその加工レベルの高さを評価して頂くようになりました。
その技術が原田精機工業、原田精機の強みです。現在ではCATIAだけでも4システムを導入しています。

切削技術に絶対的な強みありですね。

それだけではありません。2000年に品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO9001」と環境マネジメントシステム「ISO14001」の認証を同時取得しました。ISO9001に関しては、その徹底を図る意味で社員全員が「ISO9000」シリーズの内部監査員の資格を取得しています。宇宙用の品質システム規格である「EN9100」も取得済みです。
また、2004年には情報セキュリティ管理システムの英国規格「BS7799-2」について審査を受け、認証を取得しています。この規格は情報セキュリティ管理システムの国際規格「ISO27001」の前身の規格です。
BS7799では情報処理関係の情報セキュリティを対象に考えていたようなのですが、われわれは顧客から0次試作、すなわち開発の一番初期段階での試作を任されています。つまり、顧客の開発に関する秘密情報を預かるわけです。当社にとって最も情報セキュリティが必要なのはこの部分です。こうした考えから英国の規格協会に申し入れて、試作情報のセキュリティも規格の範囲であることを確認しました。
これらの国際規格は当初、原田精機工業が認証を受けたものですが、原田精機が独立してからは両社全体で1サイトとして認証を取得しています。

その原田精機工業がどうして宇宙に進出したのですか?

きっかけは、2000年に東京で開催された中小企業テクノフェアにわれわれの5軸加工技術を出展したことにあります。
 浜松は自動車・オートバイを中心にしたものづくりの町です。自動車・オートバイメーカーがカゼをひくと、周囲の小さなメーカーは大病にかかります。受注の変動が非常に大きいのです。
経営の安定化を図るために自動車・オートバイ以外の産業分野にも進出したい。そうはいっても、われわれは機械加工、削る技術の強みで生きている、削るのが本業の会社です。この本業は忘れずに堅持したい。どの分野にも削る仕事はあるはずだ。こう考えて、東京での展示会に出展しました。
小さな企業にもかかわらずCATIAを使いこなして同時5軸加工できることが評価されたのでしょうか、大手人工衛星メーカーの目にとまり、サンプル試作の依頼を受けました。NASA(米航空宇宙局)のデータに基づく羽根(インペラ)の5軸加工です。
こうしたものは、表面をいかに滑らかに加工できるかで技術レベルが分かります。普通にやればエッジにギザギザが出るのですが、われわれの削った羽根のエッジは刀のような鋭さと滑らかさを実現しています。試作のテストに無事合格して、その後は受注に結び付きました。
今では、人工衛星の展開装置や電池関係の筐体、光学系のフレームなど様々な部品を手掛けています。航空・宇宙関連は開発の比重が大きいので、原田精機を独立させたわけです。

ローバー(惑星探査用車両)も開発していますね。

2005年にJAXAの人たちが浜松のものづくり企業を視察して、その技術を高く評価してくれました。それがきっかけになって2006年、地域産業クラスターの共同研究グループ活動の一環として、浜松商工会議所内に「宇宙航空技術利活用研究会」(略称:SAT研)を立ち上げました。
そこで何をやろうかという話になりました。浜松は自動車・オートバイの町です。乗り物でいこうじゃないかということで私がワーキンググループのリーダーになり、開発テーマをローバーに決めました。それには、私自身が大の乗り物好きということにも関係しています(笑)。
2008年に浜松で開催されたISTS(宇宙技術および科学のシンポジウム)で三角形のクローラを装備した無人ローバーを出展し、実際に動かしてみせたところ大きな話題になりました。
イベント終了後も開発を続けています。最新機種ではワイヤレスのインターネットを利用し、パソコンや携帯電話からコマンドを打てばローバーを操作・管理できるようになっています。また、有人のローバーも開発しています。
惑星には地球も含まれると考えています。足場の悪い災害現場でも活躍できるんじゃないかと期待しているんですよ。

宇宙関連は大きなビジネスになると考えていますか?

宇宙はもうからないだろうと言われれば、現状はその通りです。しかし将来を見れば航空・宇宙はこれから大いに発展が期待できる分野だと考えています。世界を視野に入れると非常に大きい。
しかも、宇宙には夢があります。宇宙に自分たちの作った製品が行くというだけでうれしいじゃないですか。
現在はTAKシステム イニシアティブなどとともに、超小型衛星に搭載する地球観測用の小型望遠鏡の開発も進めています。ものづくりの能力には自信がありますし、市販の電子部品を買ってきたりして、既存の衛星や宇宙用望遠鏡よりはるかに安価でいいものを作ります。
超小型衛星が年に100機も打ち上がる時代がくれば、我々の安価な小型望遠鏡が大いに使われることになるでしょう。そうなれば、宇宙はもうからないという常識が覆ることになりますよ。

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