J-SPARC 宇宙イノベーションパートナーシップ

JAXA
数百万円で宇宙旅行できる世界へ

有翼サブオービタル事業

世界中で民間企業の宇宙開発参入が相次ぐ昨今。日本でも2017年、有人宇宙飛行の実現を目指す株式会社SPACE WALKER(東京都港区)が設立されました。上空100kmから地球を見渡せ、宇宙空間で約4分間の無重力体験ができる「サブオービタル旅行」の提供を目指す同社。一体、宇宙はどこまで身近な存在になるのでしょうか。J-SPARCの共創パートナーでもある同社の眞鍋顕秀代表取締役CEOに、これまでの取り組みを通じて見えた、宇宙産業を取り巻く環境の変化などについてお話を伺いました。

2027年度以降に有人飛行を

株式会社SPACE WALKER 代表取締役CEO

 眞鍋顕秀

――株式会社SPACE WALKERが誕生した経緯について教えてください。

株式会社SPACE WALKER・眞鍋顕秀代表取締役CEO(以下、眞鍋氏):株式会社SPACE WALKERは、「すべての人が宇宙に行ける未来」を目指して、2017年12月に設立した会社です。長年ロケット開発に携わってきた当時九州工業大学の米本浩一教授(現・東京理科大学)が、眞鍋・大山(前CEO,アートディレクター)と出会ったところから構想が始まりました。その後、JAMSS(有人宇宙システム株式会社)の社長を務めた留目一英と保田が参画し、5人でスタートしました。

幸運にも、すぐに宇宙業界のキーパーソンが集まってきました。現在の役員は10人。60歳以上と30代が半々という異色のメンバー構成です。この春からは経験豊かな外部のエンジニアや、学生インターンも仲間に加わっていく予定です。

――有人飛行の実現までのロードマップは定まっていますか。

眞鍋氏:まず、2022年に微小重力実験のロケットを成功させたいと考えています。
2024年には小型衛星の軌道投入を予定しています。スペースプレーンでの有人飛行は、2027年度以降の見込みです。スケジュールはシビアにやりたい。なぜなら、時期がずれてしまうと、マーケットが海外に取られてしまうからです。

微小重力実験のロケットのエンジンはJAXAとIHI社が研究中の最新LNGエンジン技術の使用も検討し、機体構造は主に川崎重工業が担当します。液体酸素と液化メタンを閉じ込めておく複合材推薬タンクについては、先日当社とIHIエアロスペース社が大学とも連携して共同研究契約を結んだところです。アビオニクス(搭載する電子機器)は引き続き提携先を探しています。当社の役割は、インテグレーターとして統括することです。

開発と並行して、法律整備が十分でないことなど、課題をクリアしていかなければいけません。宇宙活動法では、宇宙空間の軌道上に衛星などの物を届けることに対する規定はありますが、人を運ぶことと、サブオービタルに関する規定がありません。このため、開発者や宇宙法の専門家に加え、各官公庁もオブザーバーで入る勉強会も当社主催で2018年度に行いました。

2018年8月1日に行われたプロジェクト発足記者発表会の様子

3つの視点からのチームづくり

――眞鍋さんの株式会社SPACE WALKERにおける役割、ジョインのきっかけについて教えてください。

眞鍋氏:会計事務所の経営者という強みを生かし、事業計画と資本計画を作っています。単に「ロケットを打ち上げたいから」という理由だけでは資金調達は難しいので、ビジョンとマネタイズしていくストーリーが必要です。

設立前、実験機「WIRES #015」を見に九州工業大へ足を運びました。この実験機に、JAXAや重工各社がエンジニアリングの中心に入ってチームとなっていることも分かり、「実現できるかもしれない」と思った。それが参画へのきっかけとなりました。

会社設立後、私が1年かけて取り組んだのは、社内のチームビルディングです。重工各社と業務提携するためには、「エンジニアリング・マーケティング・マネージメント」の3つの視点からのチームづくりが必要です。

重工各社との提携は、2018年8月1日の記者会見で、日本初の有人宇宙飛行を目指すためのロードマップとともに発表しました。しっかりとしたチームの存在を知ってもらい、エンジェル投資家から投資を集めることが、1年目の目標でした。

――チームビルディングにおいて苦労した点はありますか。

眞鍋氏:集まったメンバーのバックグラウンドがあまりに多様で、その部分は苦労しましたね。共通言語がないため、小さな問題が時々発生してしまうわけです。そうした問題は、コミュニケーションでカバーするしかありません。私も宇宙への知識が十分にあったわけではありませんので、しばらくの間は、その道のプロに対して素人的な質問を繰り返しぶつけて、説明してもらっていました。

また四半期に1回程度は経営合宿も企画し、事業計画や資本計画、開発スケジュールなどを決めています。あえて温泉という非日常空間に行くのですが、「温泉は1時間以内に出る」というルールで、ストイックに学び合っています(笑)。

この1年で
宇宙市場の潮目が変わった

――株式会社SPACE WALKERは設立直後で100億円を目標に資金調達を進めてらっしゃいます。

眞鍋氏:宇宙業界のキーパーソンが揃い、設立1年目のベンチャーが100億円の調達を目指すことは、日本のファンド、特にベンチャー・キャピタル(VC)にそれなりの衝撃を与えたと思います。ファンドは投資回収までの期間が決まっているので、マネタイズに時間がかかる宇宙産業との話は成立しづらい傾向にあり、最初の頃は門前払いされていました。

ところが、この1年で潮目が大きく変わったように思います。我々自身の資金調達が本格化するのはまだまだこれからですが、実際に宇宙に大型投資するファンドや、投資期間が長めのファンドが出てきたのです。世界の潮流も宇宙ビジネスに本格的に乗り出してきているのは明らかです。そのおかげか、ここ最近は我々に対して徐々に興味をしめしてくださるVCも増えてきております。我々の働きかけのほか、仕事を実際に見て「実現に近づいている」と感じてくださった部分もあるのでしょう。日本は今まで、人を乗せて飛ばすという宇宙開発に主眼をおいてきませんでしたが、今ならまだ世界に「追いつき追い越せ」ができると思っています。

数百万円で
「ちょっと宇宙に行ってきます」

――株式会社SPACE WALKERとJAXAとの連携について教えてください。

眞鍋氏:株式会社SPACE WALKERにはまだ、「ヒト・モノ・カネ」の資源が十分そろっていないと感じています。今から約30年前、1990年代には「和製スペースシャトル」と言われる国家プロジェクト「HOPE」、その実験機「HOPE-X」というものが存在しました。実は、当社の有人飛行プロジェクトには、この当時の技術・ノウハウを継承し、商用化しようという狙いもあります。HOPE-Xは、翼が生えた再利用型のロケット。当社に集まる古参のエンジニアは、当時30代半ばでHOPE-Xに取り組んでいた当事者たちです。

当社の事業の推進には、JAXA新事業促進部が2018年5月に開始した「J-SPARC」という、企業との連携の取り組みが欠かせません。当社は、連携の第1号案件として2018年8月にJAXAと覚書を締結したおかげで、この当時の資料についての情報開示が実現しました。

かつての国家プロジェクトで培った技術・ノウハウの継承は、当時のエンジニアが現役として活躍できる、まさに今しかできません。世界的に見ても、翼の生えたロケット開発をやっているところは多くない。したがって、連携はベストタイミングでした。眠れる知財と当時の技術者の両方がそろい、当社の強力な強みとなったわけです。かつての技術を継承しつつ、全体を監督する立場からシステム開発をひと通り経験できる。若いエンジニアにとっても、0スタートの新しいプロジェクトに参加できるという事は、非常に貴重な経験となるはずです。

――今後について教えてください。

眞鍋氏:宇宙空間への輸送手段に興味のある事業者さんとの、資本提携や業務提携もできればと考えています。それ以外にも、「地上」にある一般向けの産業についても、多方面の業種の方々と一緒に考えたいと思っています。

今はまだ、宇宙空間への輸送は費用が高すぎます。私たちは、低コストで定期的に打ち上げられるサービスを、あと数年で実現するつもりです。一握りの人だけではなく、一般の人でも数百万円で「ちょっと宇宙に行ってきます」と当たり前に言える。こんな風に、日本人の宇宙に対するイメージを変えたいですね。

サブオービタル機 機体イメージ
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