平成25年度採択案件/ビジネス提案型(旧制度)

共同研究実施体制

研究代表者 :アドバンス理工株式会社 (旧: アルバック理工株式会社) 研究開発部 部長 遠藤 聡
JAXA研究者 :研究開発本部 衛星構造・機構グループ 主幹研究員 宇都宮 真 他


共同研究の背景及び概要

半導体製造における高集積化のほか、照明や電子部品・光学部品に使用される放熱・耐熱フィルム開発など、日本が得意とする技術にはさらなる精密さが求められている。それらに使用される光学部品や構造材料には温度変化に対して変形しない、より高度な寸法安定性が求められている。
アルバック理工は材料の熱物性評価において高い技術を有しており、レーザー干渉法を用いた高精度な熱膨張測定装置の商用化を実現している唯一の企業であり、その更なる高性能化に注力している。

JAXAでは、高精度な観測を実現するため、人工衛星に搭載される望遠鏡やその構造体に安定性の高い材料を必要としており、温度変化に対してほとんど変化しない極低膨張材料を用いた高精度構造の開発とその評価技術の研究を進めている。ここで両社の技術を結集し、さらなる高精度な熱膨張測定技術を開発する。本共同研究終了後、アルバック理工による熱膨張測定装置の製品化を目指す。

これにより、材料の熱物性をより正確に把握し、我が国が比較的強い材料産業、半導体装置産業をより強くすることができる。特に、半導体、有機フィルムなどの素材に対する加工精度向上により、精密部品の信頼性向上および高性能化が図られることで、結果として部品製造業の収益性向上に繋がり、国際競争力強化が期待できる。


INTERVIEW

インタビュー

従来より1桁、精度の高い熱分析装置(熱膨張計)の実現に向け、
JAXAのノウハウをあますことなく活用!

アドバンス理工株式会社
研究開発部 部長 島田賢次 氏 研究開発部 開発課 課長 遠藤聡 氏

JAXAが宇宙機や航空機の開発で培ってきたノウハウを活用することで、飛躍的に精度を高めた熱分析装置が開発されようとしている。アドバンス理工株式会社が培ってきた熱分析技術と、JAXAがもっている高度な研究環境や豊富な知見が「JAXAオープンラボ公募」制度により融合し、超高精度の熱膨張測定市販装置が誕生しようとしているのだ。


01. 熱分析の技術で世界をリードしてきた


JAXA:御社についてお聞かせください。

島田:創業は1962年です。当初は精密機器部品などを作っていました。1966年から熱分析・熱物性測定装置を作る事業をスタートし、いまもそれらの装置の製造・販売を事業のメインのひとつとしています。

JAXA:熱分析・熱物性とはどんなものですか?

島田:熱分析とは、ある物質が温度によって変化する科学的、物理的な変化を計測する事です。測定の対象となる現象には酸化による重量変化などがありますが、それらのひとつに、熱膨張というものがあります。

JAXA:熱膨張とは?

島田:たとえば、夏になると鉄道用レールが伸びることはよく知られていますよね。レールに限らず、じつはどんな物でも温度が変われば、伸び縮みするのです。ですので、モノづくりでは、温度変化よる製品の伸び縮みをできるだけ抑制したり、伸び縮みしたとしても支障を来さないように設計したりすることが大事になります。そのために、どれだけの熱をあたえると、物がどう伸び縮みするかを測る必要があります。その方法を熱膨張測定といいます。温度の変化によって物が膨張・収縮する割合、つまり熱膨張率を測るわけです。

JAXA:熱膨張測定を必要とする製品はどんなものですか?

島田:代表的なものは、USBメモリやCPUなどの半導体製品を作るための装置です。半導体製品の微細化はいまやナノメートルのレベルまで進んでいますから、それを作るためのステッパーやフォトマスクなどの装置や部品を、できるだけ熱の影響で膨張させないことが求められているのです。

JAXA:どんな方法で熱膨張測定をするのですか?

島田:大きな製品には差動トランスという位置変位を電気変位に変換するしくみを使うなど、いくつかの方法があります。でも、熱の影響をナノメートルレベルで測るとなると「レーザー干渉法」が欠かせません。これは、レーザー光を2つ以上の光路に分け、試料の両端で反射させた後、再び重ね合わせることで起きる干渉縞という縞模様から熱膨張のしかたを測る方法です。この原理を使った熱分析装置を規格品として商用販売しているのは、世界で私どもだけです。

02. 「もう1桁、精度よく」に応えるべくオープンラボ公募にエントリー


JAXA:オープンラボを始めたきっかけはどんなものでしたか?

遠藤:JAXAの研究者から、そういう制度があるというお話を聞いて応募しました。もともと、半導体製造装置メーカーのお客さまなどから、「もう1桁、精度よく熱膨張率を測定することはできないものか」といったご要求を受けており、「どうにか実現したいけれど、ノウハウもリソースも限りがある」と地団駄を踏んでいました。そんななか、JAXAの研究担当者が、私どもの分析サービス部門にいらっしゃったんです。JAXAも宇宙空間で人工衛星がどう熱変形するかを正確に予測するために、精密に熱膨張率などを測定することが必要で、私どもにご相談に来られました。いまより1桁、精度よい熱膨張を実現したいという課題を、私どももJAXAも共通でもっていたわけです。

島田:エントリーに必要となる研究提案書に、私どもで目指している温度や膨張量の分解能などの目標を書くなどして応募した結果、2013年度から3年間の期間ということで採択していただきました。

03. 自社で得られぬ知見で研究開発が進捗


JAXA:実際の共同研究はどのように進みましたか?

遠藤:私どもとJAXAの方々とで、毎月一度の頻度で定例ミーティングを行い、進捗状況やその時点での成果などを共有しました。また、試作装置をJAXAの筑波宇宙センターに持ち込んで、そこで実験したりもしました。

JAXA:各年度の取り組みについてお聞きします。

島田:1年目は、装置に使う材料をどうするかなど、基礎設計を行いました。JAXAは、私どもに比べ格段に性能の高いシミュレーション技術をおもちでした。ロケットの打ち上げ時にかかる応力の予測などに使っているそうで、「さすがJAXA、すごい」と感じました。とくに有効だったのは、振動解析のシミュレーション技術ですね。空気の振動さえ分析装置の状態に影響をあたえるので、そうした影響を抑えるための技術を実現すべく、シミュレータを駆使し解析しました。

遠藤:材料の選定についても、JAXAがおもちの知見の多くを活用させてもらいました。重力の影響を受けない軽量で、かつ歪みの少ない材料が必要ですが、JAXAは航空機や宇宙機の開発で、そうした材料の知見を十分におもちです。試料のセッティング部分に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使うなど、選定を進めました。

JAXA:2年目はいかがでしたか?

島田:試作してはその装置で測定をし、その結果をフィードバックして、より性能と安定度のよい装置をまた試作する。その繰り返しでしたね。

遠藤:この段階でとりわけ役立ったのが、宇宙分野で実施されているエラー解析技術でした。FTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)と言うそうで、可能性のある問題の原因を列挙して、ひとつひとつ潰していくのです。

島田:それぞれの問題の原因がどれだけ起因していそうかを、シートに書き込んで、重そうなものから潰していきます。たいへん役に立ちましたね。普通に暮らしていては気づかないような原因の可能性も、JAXAは示してくれました。

遠藤:もうひとつ、JAXAの極めて優れた試験環境を使えたのも大きかったと考えています。それは、温度や振動などの影響を極限まで小さくした試験環境です。私どもの試験環境で測定すると、何度やってもデータの再現性を得られず、島田がずっと悩んでいたんです。そのデータと、JAXAの試験環境でのデータを比べることにより、どうすれば、一般的な試験環境でも再現性あるデータを得られるかがわかってきました。商品としての熱膨張測定市販装置は、さまざまな状況で使われますから、どんな環境でも再現性を得られることが製品化にはとても重要なんです。

JAXA:3年目以降はどうでしたか?

遠藤:多くのお客さまに使っていただけるよう、商用化をめざして改良を重ねていきました。ご使用いただきたい企業に普通に買っていただけるためには、価格を抑えることが必要です。

島田:それとともに、どんなレベルの技術をおもちの方であっても、簡単に試料を扱えるような分析装置にすることも、商用化には重要ですので、改良を重ねていきました。

04. 「ここまできれいなデータをとれるとは」


JAXA:装置の市販化に向けての目処はいかがですか?

遠藤:ひきつづき、多くのお客さまに使っていただける装置にすべく、価格を抑えるための努力などに取り組んでいますが、2020年ごろには、1桁精度の高い熱膨張測定市販装置として、世に出せられたらなと考えています。

JAXA:オープンラボを利用しての成果はどのような点にあると思いますか?

遠藤:今回開発した熱膨張測定装置で計測された熱膨張の再現性を得られるようになった点は、やはり成果として大きかったと思います。オープンラボの審査委員の先生たちにも「ここまできれいなデータを取れるようになったのですか」と驚いていただきました。

05. JAXAにはたくさんの“お宝”がある


JAXA:「JAXAオープンラボ公募」に興味をもっている他の企業の方々に、メッセージをお願いします。

遠藤:宇宙や航空の分野の要素技術をJAXAはたくさんおもちです。宇宙航空産業では使われているものの、ほかの分野にも適用しうる技術はたくさんあるはずです。みなさんの会社がもっていらっしゃる技術とのマッチングを上手にとっていただき、リスクが高くて踏み出せないでいた新たな分野に、ぜひ挑戦されてみてはいかがでしょうか。

島田:私たちの会社は従業員100人未満の小さな規模です。新たに開発をしようとしても知識、マンパワー、資金などの資源が十分でなく、なかなか踏み出しにくいことがあります。けれども、お客さまからは、より高度なご要求をいただきます。そのふたつの間で悩んでいるという研究者や開発者は私どもだけでなく、世の中に多くいらっしゃることと思います。そうしたなかで、資金的にもそうですが、経験や知識、高度な技術をおもちのJAXAと共同で研究することができたのは夢のような話でした。「機会があればぜひやりたいのだが、踏み出せないでいる」とお感じの研究開発者のみなさんには、ぜひ、門を叩いていただきたく思います。自社の技術力を高めることにになるとともに、社会の要素技術に貢献することにもなると思いますから。JAXAには、たくさんの“お宝”がまだまだあると思います。

島田賢次シマダ ケンジ

1986年 真空理工株式会社(アドバンス理工の旧社名)に入社。
2016年 研究開発部部長に。生産本部試験2グループ長、営業本部分析グループ室長、総務管理部IT管理室長を兼務。

遠藤聡エンドウ サトシ

2007年 アルバック理工株式会社(アドバンス理工の旧社名)に入社。
2016年 研究開発部開発課課長に。
工学博士。日本プロジェクトマネジメント認定プロジェクトマネジメント・スペシャリスト。

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