J-SPARC 宇宙イノベーションパートナーシップ

JAXA
VR/AR×宇宙データで宇宙がもっと身近に 
グリーとJAXAが取り組む新たな宇宙ビジネス 

宇宙関連データを活用したVR・教育エンターテイメント事業

東京都稲城市のよみうりランドで2019年3月25日〜5月31日、VRの最新技術を活用して月面体験ができる「月面キッズキャンプ」(主催グリー株式会社、協力JAXA)が開催されています。メインコンテンツは、J-SPARCの中でグリーとJAXAと共同で取り組んだ、重力をはじめとする月の環境を学ぶための、子ども向けVR体感サイエンスツアー「ありえなLAB」。J-SPARCにおける取り組みと、「VR/AR×宇宙データ」で変わる未来の生活について、グリー株式会社開発本部XR事業開発部部長・原田考多氏と、J-SPARC・プロデューサー神谷岳志が対談しました。

VR/ARを活用した宇宙教育

グリー(株) 開発本部 XR事業開発部部長
 原田考多氏

グリー株式会社開発本部XR事業開発部部長・原田考多氏(以下、原田氏):当社ではJ-SPARCに参加する以前より、「VR/AR」のビジネスについて取り組んでいました。取り組み始めた理由はシンプルで、VR/ARが、スマートフォンの次にみんなが持っているデバイスになるだろうと考えたためです。

VR/ARを含む「XRビジネス」に早い段階で取り組み、人々に行き渡るタイミングで良いサービスが提供できるように準備しておこうというのが、もともとの趣旨です。その中で、あえて宇宙というテーマを選択しました。XRは今存在しないものを擬似的に作り出す技術です。そういう意味で、宇宙というテーマが最適でした。

J-SPARCプロデューサー・神谷岳志(以下、神谷):今回のプロジェクトにおけるJAXAの狙いの一つが、将来の宇宙人材を生んでいく「宇宙教育」です。JAXAでも以前より、宇宙教育センターという部署を中心に、宇宙教育を進めてきました。特に、少し遠い宇宙だからこそリアルな体験で学ぶことは重要であり、XRの技術を使うことは新たなチャレンジです。

また、JAXAの月探査等の宇宙関連データの新たな利用を開拓する、という狙いもあります。XRのような成長分野において、初期から宇宙のデータ利用を組み込んでいくことで、市場の成長とともに利用がさらに拡大すると考えました。

そして、宇宙が持続的に使われていくことで、我々の生活が豊かになったり、普段の生活が少しでもわくわくするものになってほしいという思いがあります。

原田氏:宇宙業界は、2040年とか2050年といった未来を目指していますよね。今から20年とか30年後、私たちはもう高齢者なっていて、マーケットを引っ張る存在にはなっていないでしょう。宇宙産業がこれからターゲットにしている年代を狙うにあたって、今の子どもや若者の宇宙への関心が高まってこないと、産業規模は大きくなりません。したがって、宇宙教育は宇宙産業を拡大させる上で、重要な要素だと思います。

サービスを継続していくには、インカムが必要です。インカムがないサービスは継続性もない。宇宙もXRもそうなのですが、継続的にやることに成功した人があまりいないんです。したがって、産業が大きくなっていかない。

しっかりお客様に価値を感じてもらい、対価をいただいて、次の期待に応えていく。そうしたサイクルを回せるようにしたい。ここできちんと事業化されて継続性のある取り組みになっていけば、結果、改善までのサイクルが回るようになります。
そこをまず軌道に乗せ、楽しんでもらえるコンテンツとして成長させていくつもりです。

神谷:サービスの中でお客様に最大の価値を提供していくことを通して宇宙の利用が徐々に広がっていく、そのようなやり方を一緒にトライできることが企業と組むメリットだと思っています。そして、原田さんはビジネスとして取り組みながらも、ご自身が宇宙に対して深い関心を持たれており、次世代に向けて何らか貢献したいとおっしゃっている。同じ方向性のビジョンを持つと感じられ、一緒にやっていて楽しいです。

原田氏:宇宙やXRへの関心が高まっているのは、日本だけではありません。教育や宇宙は世界的なテーマです。私は今回の取組みを日本だけではなく、世界に広めたいと思っています。

実は、日本の中でも都心部と地方で教育格差の問題が多分にあります。XR技術を活用し、PCとヘッドセットがあれば、地方でも都会と同じような体験ができます。体験価値を下げずに、ポータビリティーを上げることがVRにはできます。

短いサイクルで試行錯誤を繰り返し
サービスを実現させる

J-SPARCプロデューサー
 神谷岳志  Profile

神谷:今回の取り組みでJAXAは、月の実際の地形データや今までの研究で培った知見を提供しました。グリーに開発していただいたコンテンツの「楽しさ」に加えて、データや知見による裏付けを行うことで「正しさ」を担保することに挑戦しています。

原田氏:教育とXR技術を組み合わせるというのが今回のテーマです。そこで、内容や情報が間違っていれば意味がありません。学ぶべき正しい内容というのが、まさにJAXAさんに頼っているデータと知見に基づいた「正しさ」なんです。

神谷:その「正しさ」と「楽しさ」をどのようなバランスにするかという点こそが、今回最も悩んだところで、それをグリーさんのノウハウを活かして実現頂きました。グリーさんのミッションは「インターネットを通じて世界をより良くする」。ものづくりの会社であり、試行錯誤を繰り返しながら、最後の数週間で加速度的にクオリティを上げ、しっかり製品として完成させていく点には感銘を受けました。

原田氏:2017年にJAXAとの連携を始めて依頼、アイデアを出し合って、3カ月ごとに企画を実現しています。新しいことやろうとしたら、最初から決まったストーリーで最後まで行けるプロジェクトなんてなかなかありません。短いサイクルでプロジェクトを試行錯誤して実現するのは、大変な部分もあります。そんな中で一緒に進んでこられたのは、素晴らしいことだと思います。

加えて、相模原にあるJAXAの施設を使わせていただいたり、宇宙関連企業をご紹介いただいたりと、JAXAの持っているアセットを幅広く使わせていただいております。これはJ-SPARCの枠組みがあったからこそ、機能していると思っています。

神谷:JAXAの開発は、最初に決めた計画に沿って進める「ウォータフォール型」であり、10年以上に及ぶ長期プロジェクトも多くあります。昨今、10年も経てば、周りの環境は変わることも多いと思います。グリーのやり方は、それとは全く異なる「アジャイル型」と呼ばれる、お客様からフィードバックをしながらサービスを作り上げていくやり方です。一緒にプロジェクトを進めながら、学ぶところが非常に多いです。

宇宙は、もっともっと身近なもの

神谷:今後は、国際宇宙探査など、いろいろなプロジェクトを実施していく中で、月などのデータがどんどん蓄積されていきます。そういったデータも活用してビジネスを生み、新たな発見等が広く世の中に知られていくことにつながれば嬉しいです。

原田氏:今年はアポロの月面着陸成功50周年です。宇宙産業界隈では、「今年は宇宙だな」と盛り上がっていますが、一般の人まで波及しているかと言われるとまだまだです。誰しも小さい頃は、宇宙に興味を持っていたはずです。しかし、いつの間にか距離が生まれてしまう。

経済発展や地球全体、人類の発展に宇宙や月のテーマは、まさにフロンティアだらけ。もっとみんなで盛り上げることは、メリットも大きいと思いますし、日本にとっても強みとなるはずです。それは、一社じゃできないことでしょう。大事なのは、まずはビジネスを成功させること。そうすれば参入する人が増えるのです。

そのためには、お客様に評価してもらえ、対価を貰えるものにする必要があります。これが最優先です。それが将来的には、産業全体の成長につながっていくはずです。

宇宙ビジネスは、実はすごく身近なものです。星を鑑賞できるグランピングサイトがありますが、これもある意味宇宙ビジネス。宇宙を商品にして見せてくれるわけですから。宇宙を遠い存在だと思う必要はありません。そうすれば、色んな人に機会があると思います。

神谷:色々な分野で宇宙を利用できる可能性がまだまだあり、そのポテンシャルは無限です。ビジョンとアイデアと実行力で、世界初とも言える試みができます。どのようなチャンスが埋もれているでしょうか。そのポテンシャルこそが宇宙の面白さだと思います。

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