GEO-X (GEOspace X-ray imager) は地球磁気圏の大局構造の可視化を世界で初めて実現する超小型衛星計画である。地球磁気圏は人工衛星によるその場のプラズマ計測と地上観測で調べられてきたが、大局構造とその変化の把握は困難であった。GEO-X では広視野の軟X線撮像観測という新手段でこれを可能にする。
概要
本ミッションの狙い
X線を用いた磁気圏の大局構造、特に磁気圏の太陽側に存在する衝撃波、遷移領域、カスプを撮像する。さらに太陽風動圧の変化で動的に変化する磁気圏システムの姿を捉える。これらにより磁気圏の大局構造とその変動を理解する。
実現のキーとなる要素技術
(1) 超小型衛星の限られたリソースで大型天文衛星並の感度を実現する超小型X線撮像分光装置。
(2) さまざまな相乗り機会に柔軟に対応できる高推力の推進系を持った超小型衛星。
衛星のスペック
(1) サイズ ~50 cm 立方
(2) 重量 ~50 kg (うち 18U Cubesat 20 kg、ハイブリッドキックモーター 30 kg)
(3) 電力 100 W max
(4) データ送受信 X-band
(5) 軌道変換能力 Δv 1000 m/s
衛星のイメージ図
ミッションのイメージ図
観測装置、観測シミュレーション例、軌道遷移例
開発状況・計画
(1) 科研費 特別推進研究 等を獲得。JAXA 小規模計画※に採択。
(2) 衛星バスの詳細設計中、推進系は EM 開発完了、観測装置も EM 開発中。
(3) 2023-25年打ち上げ (太陽活動極大) を目指して、相乗り機会を模索中。
※ 打ち上げ機会確保の条件付き
ミッションや技術詳細
GEO-X は地球磁気圏のX線による可視化と磁気圏構造の理解を目的とする超小型衛星計画である。このためには月付近の高度 (40-60 Re)から俯瞰的な広視野 (5x5 deg) の軟X線撮像分光 (0.3-2 keV)が必要だが、従来のX線天文衛星は遠方天体の観測が主であり、地球近傍からの狭視野観測が主流であるため未実施である。そこで GEO-X では来る太陽極大(2023-25年頃)の打ち上げを目指し、超小型衛星で実現する。打ち上げは大型ロケットへの相乗りを想定し、GTO 以遠の軌道から最終的な観測軌道に自力で投入する。
実現に必要な技術は二つあり、一つが超小型衛星の限られたリソース (<10 kg, <10 W, <3U) の中で、大型X線天文衛星すざくに匹敵する広がった放射への感度を実現する超小型X線撮像分光装置である。従来技術では不可能なため、我々は新技術を用いて、すざくの望遠鏡・検出器システムを焦点距離を 1/15、重量を 1/4 にコンパクト化する。望遠鏡には日本独自の手法である Si 基板の微細穴加工を用いた MEMS (マクロマシン)方式を用いる。世界最軽量であり、JAXA 宇宙技術ロードマップで獲得すべきキー技術に選定された。検出器には高速読み出しが可能で安価なX線CMOSを採用し、ポリイミド薄膜に Al を成膜した可視光遮光フィルタと組み合わせて昼地球からの可視光ノイズを低減する。望遠鏡は東京都立大、検出器は関東学院大、可視光遮光フィルタは名古屋大が担当する。現在、各コンポのEM相当品の開発と性能評価を進めている。
もう一つの必要な技術が、さまざまな相乗り機会に柔軟に対応できる高推力推進系を持った超小型衛星である。そこで JAXA 宇宙研・東大と北海道大学が開発中の新技術を用いる。18 U CubeSat (20 kg) に、大推力のハイブリッドキックモーター (Δv 1000 m/s) を組み合わせる。それぞれ JAXA 宇宙研・東大、北海道大が担当する。現在、衛星の詳細設計を進めており、推進系もEMの実証試験(推力履歴、気密など)を完了済みである。
参考文献など
(1) プロジェクトホームページ https://tokusui-geox.jp
(2) Ezoe et al., 2020, "GEO-X (GEOspace X-ray imager)", SPIE, 11444, 1144428, https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spie/11444/1144428/GEO-X-GEOspace-x-ray-imager/10.1117/12.2560780.short?SSO=1
(3) 日本学術会議 地球惑星科学委員会 ロードマップに記載, http://www.jpgu.org/wp-content/uploads/2020/05/scjreport20200515.pdf (p.18)