JAXA
Sessionsセッション紹介

超小型衛星による宇宙可視光背景放射観測ミッション

①(代表)佐野 圭、②中川 貴雄、松原 英雄、磯部 直樹、宮﨑 康行、③松浦 周二、④津村 耕司
①九州工業大学、②JAXA、③関西学院大学、④東京都市大学
概念検討中

概要

我々は、超小型衛星による宇宙可視光背景放射観測ミッションの検討を進めている。宇宙背景放射は、宇宙初期から現在までに放射された光の総計であり、宇宙の星形成史を解明するための重要な観測量である。等方な強さを持つ宇宙背景放射の観測は高い解像度や指向精度を必要としないため、6Uサイズの超小型衛星に比較的小口径の望遠鏡を搭載することで実現可能なミッションである。

本ミッションの狙い

6Uサイズの衛星に小型望遠鏡を搭載し、宇宙初期から現在までに放射された光の総計である宇宙背景放射を可視光で観測することにより、その起源を明らかにする。

実現のキーとなる要素技術

・長時間露光において、約7秒角/分(3σ)の指向安定性を達成する姿勢制御系
・検出器の暗電流を低減するために、検出器を約-20℃に冷却するための冷却機構

衛星のスペック

・6U
・絶対指向精度約1度かつ指向安定性約7秒角/分(3σ)
・ダウンリンク時に数Mbpsのデータレート。また、観測後、約1日でダウンリンク可能であること。
・低inclination軌道でも成果を得られる熱構造を設計するが、太陽同期軌道(Twilight zone)が熱的な観点からより望ましい。

衛星のイメージ図

ミッションのイメージ図

開発状況・計画

2021年7月頃から概念検討を開始し、現在も継続している。開発資金を獲得した場合には、衛星を打ち上げ、科学成果を得るまでに5年程度を見込んでいる。

ミッションや技術詳細

可視光から赤外線で観測される宇宙背景放射は、宇宙初期の天体など未知天体からの放射を含むため、天体形成の歴史を解明するために重要な観測量である。これまでの天文衛星等の観測により、近赤外線における宇宙背景放射の輝度は通常銀河の足し合わせの数倍に達すること、またその空間的なゆらぎは銀河の分布だけでは説明できないことが分かってきた。これらから、宇宙背景放射には未知の天体からの放射が寄与していることが示唆されるため、そのような天体の特性を解明する必要がある。そのための観測プロジェクトとして、我々は観測ロケット実験CIBER-2(Cosmic Infrared Background Experiment 2)を進めている。この計画では、口径30cm望遠鏡および観測装置をNASAの観測ロケットに搭載し、可視光から近赤外線の宇宙背景放射のスペクトルと空間ゆらぎの観測により、その起源天体の解明を目的とする。CIBER-2は2021年6月に第一回の打ち上げ、観測に成功した。次の宇宙背景放射観測ミッションにおいては、観測波長域と観測領域を拡大することによる多波長スペクトルおよび大角度スケールのゆらぎを観測することが重要である。特に可視光の0.5umより短波長での広域サーベイは科学的に重要であるとともに、世界的にも例がない。宇宙背景放射は空間的に広がった放射であるため、比較的小型の望遠鏡で観測可能であり、点源観測ほどの高い指向安定性が要求されないという特性がある。また、可視光観測においては赤外線観測ほど観測装置を冷却する必要がない観点からも、超小型衛星を利用した観測ミッションを提案する。超小型衛星のサイズは6Uを想定し、3U程度を占めるミッション部には、約10度角の広視野をカバーする望遠鏡光学系、暗電流が小さく安定な検出器、検出器を約-20℃に冷却する機構、迷光除去機構が必要となる。また、バス部の姿勢系には、絶対指向精度約1度、指向安定性7秒角/分(3σ)程度が必要となり、観測データのダウンリンクのために数Mbpsのデータレートが必要である。宇宙背景放射の検出感度を見積もるために、口径6cmの望遠鏡光学系を仮定し、信号雑音比を見積もった。その結果、100秒積分の画像数枚の重ね合わせとピクセルビニングにより、十分なS/Nで観測可能であることが期待される。今後、6U衛星の開発を進めるとともに、将来的には、数10kg級衛星に望遠鏡冷却機構を搭載することによって、観測波長を中間赤外線域に延長し、小型衛星による宇宙背景放射観測ミッションを推進したい。

参考文献など

Knapp et al. (2020), AJ, 160, 23
Pong et al. (2018), 32nd Annual AIAA/USU Conference on Small Satellites, SSC18-PI-34

動画

講演資料


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