太陽系最大の爆発現象である「太陽フレア」が引き起こすエネルギーの解放とそれによって生じるエネルギー変換機構の追究を目的とする。そこで太陽フレアが生み出す高エネルギープラズマの詳細観測を行うために、定常的なX線集光撮像分光観測を実施する。これは、空間・時間・エネルギー分解能をすべて備えた定常的な太陽X線観測で、実現すれば世界初となる。X線の強度は太陽活動の指標となっており、太陽X線の定常的なモニターは宇宙天気(太陽フレアによる地球周辺環境への影響)の観点でも極めて重要である。
概要
本ミッションの狙い
太陽は地球に最も近い恒星であり、高エネルギープラズマ現象が詳細に観測可能である。そのため小型の観測装置でも新規性を打ち出せば一級の科学成果が期待できる。本計画の新規性はX線集光撮像分光であるが、太陽活動のモニター(宇宙天気)の観点でも新しく、社会的貢献にも寄与できる。
実現のキーとなる要素技術
高精度X線電気鋳造ミラー、高速度X線カメラ(裏面照射型CMOS検出器、CdTe検出器)、高速データ処理
衛星のスペック
■サイズ・重量:500mm×500mm×850mm 程度・85kg程度(バス65kg程度、観測装置20kg程度)
■姿勢制御系、通信系等への要求:
・絶対指向精度:10分角以下(太陽面(直径30分角)の2/3が視野に入ること)
・指向安定性:1分角以下/10秒
・指向決定精度:4秒角以下(望遠鏡の空間サンプリング以下)
・通信系:Xバンド(最低Sバンド)
■投入したい軌道:サイエンスの点では観測時間が長時間確保できる太陽同期極軌道が望ましいが、民生品の使用を想定し放射線環境の緩い赤道軌道もありうる。
衛星のイメージ図
ミッションのイメージ図
開発状況・計画
観測ロケットを用いた太陽X線観測(非フレア時)をこれまでに3度実施済みで、2024年にはフレア観測に挑む。本計画では、この観測ロケット実験で培ってきた技術を活用し、定常的な太陽観測を実現したい。ロケットベースの観測機器を用いた計画の場合、本格的な計画開始から3年程度で実現したい。
ミッションや技術詳細
本計画の目的は、太陽系最大の爆発現象である「太陽フレア」が引き起こすエネルギーの解放とそれによって生じるエネルギー変換機構の追究である。そこで太陽フレアが生み出す高エネルギープラズマの詳細観測を行うために、定常的なX線集光撮像分光観測を実施する。これは、空間・時間・エネルギー分解能をすべて備えた定常的な太陽X線観測で、実現すれば世界初となる。
また、X線の強度は太陽活動の指標となっており(米国の気象衛星GOSE搭載の太陽X線モニター装置が代表格)、太陽X線の定常的なモニターは宇宙天気(太陽フレアによる地球周辺環境への影響)の観点でも極めて重要である。
観測装置は、「高精度電気鋳造X線ミラー」と「高速度X線カメラ」を1つのペアとする。高速度X線カメラの検出器には、軟X線用には裏面照射型CMOS検出器、硬X線用にはCdTe検出器を用いる。高精度のX線用ミラーを用いることで、光量、空間分解能とダイナミックレンジ(明るい場所も暗い場所も同時に観測できる能力)を確保する。そして、高速度X線カメラによって、X線光子1個1個の位置・時間・エネルギー情報を取得する。これにより、空間・時間・エネルギー分解能をすべて備えた観測を実現する。
85kg程度の衛星の場合、焦点距離600mmのミラーが7ペア程度搭載可能で、軟X線で4秒角程度の空間サンプリングが行える。これは最新の太陽X線観測装置と比べれば見劣りはするが、十分にサイエンスが行える分解能であり、位置・時間・エネルギーといった3つの情報が同時取得できるという新規性を考えれば、大きな科学成果の創出が期待できる。
なお、より小型の衛星の場合でも(例えば6U)、性能に一部制限は生じるが、同様のコンセプトで規模感・コスト感に見合った観測が実現できると考えている。
必要な観測技術については観測ロケット実験FOXSIシリーズを通じで基礎開発を完了しているが、ミラーについては小型化とネスト化(多重化)が必要である。ミラーは電気鋳造技術で製作するため、一度、母型の開発が完了すれば複製が可能であり低コスト化が見込める。この点も活かし、太陽活動周期(11年)にわたる定常的なモニターのために、衛星のシリーズ化も検討したい。
参考文献など
本計画で用いる技術を実証した観測ロケット実験のwebリリースページ
https://hinode.nao.ac.jp/news/topics/foxsi-3/
https://hinode.nao.ac.jp/news/topics/foxsi-3-data-release-jp-20190115/