大型の衛星では困難な、明るいX線天体の長期占有観測や、機動力を活かした多波長同時観測を実現するために、6U CubeSat による天体ポインティング型のX線衛星 NinjaSat を開発している。1UのガスX線検出器2台と超小型の放射線帯モニター2台を搭載し、2023年4月に Cygnus 補給船で打ち上げる。科学観測を素早く実現するために、衛星バス部開発は民間企業に任せるという戦略をとる。
概要
本ミッションの狙い
(1) 超小型衛星による汎用X線天文ミッションの実現
(2) 長期占有観測や機動力を活かした、地上望遠鏡との協力による、多波長、マルチメッセンジャー観測の実施
(3) 公共公開X線天文台の実現
実現のキーとなる要素技術
1Uサイズに収まる、十分な有効面積を持つX線検出器
衛星のスペック
サイズ: 6U
質量:~8 kg
電力:~16 W (w/40% margin)
3軸姿勢制御、指向精度 0.1deg
ダウンリンク 60 MB/day (最大)
投入軌道: 450-500 km, 軌道傾斜角 51.6deg
衛星のイメージ図
ミッションのイメージ図
開発状況・計画
2020年度 EMペイロード製作
2021年度 FMペイロード製作
2022年度 衛星インテグレーション&テスト
2023年4月打ち上げ (1年以上運用予定)
ミッションや技術詳細
伴星から質量降着するブラックホールや中性子星など、X線で明るく輝く天体の占有観測を狙うミッションである。地上の可視光望遠鏡や電波望遠鏡などと連携し、多波長での強度変動をモニターすることで、強重力天体への物質降着メカニズムを探る。また、理化学研究所がJAXAと共同で運用している、国際宇宙ステーション搭載の全天X線監視装置 MAXI が発見した明るい突発天体などを、長期間観測することで、X線放射の時間変動の起源を探る。さらに、さそり座 X-1 (中性子星連星) の自転周期をX線観測から求めることで、同時期に観測を行っている重力波天文台が、定常重力波を検出するための基礎情報を提供する。
主ペイロードとして、 1U サイズのガスX線検出器 (Gas Multiplier Counter; GMC) を2台搭載する。1台当たりの質量は 1.2 kg、Xeベースのガスを封入しており、2-50 keV 帯域のX線に感度を持つ。X線信号増幅には、理化学研究所で開発し、既に宇宙実証されている、ガス電子増幅フォイルを用いる。衛星バスとペイロードの間は、CSP over CAN と UART により通信を行う。軌道上の荷電粒子をカウントするため、 1 cm 角、500 μm 厚の Si-PIN フォトダイオードを用いた、放射線帯モニター (Radiation Belt Mointor; RBM) も2台搭載する。GMC は、荷電粒子の多い南大西洋異常帯 (SAA) やオーロラ帯では観測を停止するが、RBM は常に荷電粒子計測を行い、放射線環境を可能な限り連続的にモニターする。
チームメンバーがペイロード製作に注力するために、衛星バスは、ある程度 6U cubesat の打ち上げ経験がある民間企業への外注とした。衛星バスとの間はインターフェースを切った上で、ミーティングを頻繁に繰り返すことで、お互いの意思の相違を減らす工夫をしている。民間企業を活用した cubesat 衛星プロジェクトは、今後、宇宙実験が短期サイクルで回り、科学者にとって身近なものになるための、パイロット実験である。また、観測時間の一部を利用し、一般や学生からのリクエストで任意のX線天体観測を行う、アウトリーチ活動も予定している。
参考文献など
(1) Twitter https://twitter.com/ninjasat_xray
(2) "NinjaSat: an agile CubeSat approach for monitoring of bright x-ray compact objects", T. Enoto, et al., Proc. of SPIE, 11444, 114441V (2020)