我々はほとんど進展してこなかった太陽フレアに伴って発生する中性子(太陽中性子)の観測を宇宙空間から高感度で実現するため、理工連携で3Uキューブサット SONGS (SOlar Neutron and Gamma-ray Spectrocopy Mission)を次期太陽極大期にあたる2024年の打ち上げを目指し、開発中である。SONGSには宇宙線の飛跡を3次元で追跡できる、独自開発の中性子・ガンマ線観測装置が搭載され、700以上のセンサ信号を処理する。本講演ではSONGSの科学目標とミッションセンサの概要、開発の現状について報告する。
概要
本ミッションの狙い
現在、宇宙空間に太陽フレアに伴う中性子を観測する専用ミッションが全く存在しない、かつ、計画されていないため、その空白期間を埋めるとともに、中性子発生の時間分布とエネルギースペクトルから粒子加速の起源に迫る。
実現のキーとなる要素技術
宇宙線観測センサをキューブサットで実現するための技術は以下のものがあげられる。
・放射線計測(シンチレータ+光検出器)技術
・高密度・積層実装技術
・多チャンネル信号処理技術
・熱設計・構造
衛星のスペック
・衛星サイズ 3U
・重量 4kg
・電力 10 W(太陽電池パドル展開)
・通信 Sバンド通信系+低消費電力無線通信(LPWA)検討中
・姿勢制御 3軸磁気トルカ
・衛星軌道 低地球軌道
衛星のイメージ図
ミッションのイメージ図
開発状況・計画
・現在、要素試作モデル(BBM)設計・開発・試験中。
・11年周期の太陽活動が極大となる2024年頃の打ち上げを目指す。
・将来的には月や火星の水資源探査や中性子の寿命測定に応用することを視野に入れている。
ミッションや技術詳細
太陽フレアに伴って粒子が加速され、電波障害など時には人類の生活にも影響することが知られているものの、いったいいつ・どこで・どのように加速されているかは分かっていない。陽子や電子などの荷電粒子は磁場の影響で進行方向が曲がったり、そのエネルギーを失ってしまうため、我々は電気的に中性で、加速された時の情報を保持したまま太陽から地球にやってくる中性子に着目している。しかし、中性子はこれまで地上高地でも1980年代から数-数10 m2の大きな装置で観測されてきたが、地球大気の影響を受けてしまう、まだ、感度が上がらないなど検出数は12例のみである。一方で宇宙空間から国際宇宙ステーション(ISS)上で実現したSEDA-APという放射線観測実験モジュールの中で、ファイバー型の中性子観測装置があり、10 cm角の小型にも関わらず、40例以上の検出に成功した。しかし、SEDA-APも運用を中止し、世界的に見ても太陽中性子を観測するミッションは存在しない。
本ミッションは、SEDA-AP中性子計測装置を独自に改良し、さらにガンマ線検出機能を加えてキューブサットで実現しようとするものである。太陽フレアに起因する中性子をとらえる専用の人工衛星は過去にはなく、世界で初めてといえる。このミッションは、名古屋大学博士課程リーディング大学院「フロンティア宇宙開拓リーダー養成プログラム」に所属する大学院生から提案された内容をもとに一度は2016年2月にChubuSat-2衛星に搭載され、打ち上げられたことがあるが、そのリベンジミッションでもある。特徴としては放射線の中でも中性子とガンマ線をターゲットとして、シンチレータと呼ばれる放射線が入射すると光を出すセンサとMPPCとよばれるシリコン半導体の光センサを組み合わせ、多層に並べた構造をもち、様々な放射線が入るとその飛跡を3次元的にとらえるものである。3次元的に可視化するためにはその信号処理の系統数も700以上に上り、ノルウエーIDEAS社の集積回路(ASIC)を用いて多系統・低消費電力を実現する。