2020.02.26

36機の小型SAR衛星による準リアルタイムデータ提供サービス事業の創出に向けたJ-SPARC事業コンセプト共創の開始について

JAXAと株式会社QPS研究所は、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」(※1)の下、小型SAR衛星による準リアルタイムデータ提供サービスについて、両者協力して事業コンセプトの検討、即ち、事業コンセプト共創を開始します。

本共創の開始にあたり、QPS研究所とJAXAは、2020年2月26日に、「小型合成開口レーダー(SAR)衛星コンステレーションによる準リアルタイムデータ提供サービスの事業コンセプト共創」についての覚書を締結しました。

今回共創する準リアルタイムデータ提供サービス事業は、小型SAR衛星を36機同時に運用することで得られる、準リアルタイムといえる10分毎に観測したデータの利用を促進するものです。得られた画像データと気候データや市場・経済データ等とを組み合わせることで幅広い活用方法が期待されています。

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QPS研究所は、これまでに、自社開発した小型衛星用の大型軽量アンテナにより100 kg級の小型SAR衛星を開発し、今までの大きなアンテナと多量の電力を消費するSAR衛星に比べて、20分の1の質量、100分の1のコストを実現しました。現在は、小型SAR衛星システムの構築を進めており、2019年12月11日には国内初となる小型SAR衛星1号機「イザナギ」(※2)を打ち上げ、運用しています。

JAXAは、SARセンサから得られる膨大な観測データを衛星上で高速に画像化する「SARデータの軌道上画像化装置」(※3)(オンボード画像化装置)を開発しました。これにより、観測後、地上局にデータ伝送するまでの待ち時間に軌道上であらかじめ画像処理を行うことで、ユーザへのデータ提供に要する時間を大幅に短縮することが可能となります。

本事業コンセプト共創では、QPS研究所はオンボード画像化装置の搭載に向けた衛星側インターフェースの技術検討及び準リアルタイム観測で実現できるビジネスモデルの立案を行い、JAXAはALOS-2等のレーダー衛星利用に関する知見を活用したレーダー衛星画像の有効利用に関する検討に取り組むとともに、オンボード画像化装置の搭載に向けた装置側インターフェースの技術検討及び小型SAR衛星のリスク分析支援(※4)を実施します。

(※1)J-SPARC:
J-SPARC(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す新しい共創型研究開発プログラム。2018年5月から始動し、現在、約20プロジェクトを進めています。
(参考) https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/

(※2)小型SAR衛星1号機「イザナギ」:
QPS研究所が初めて打ち上げた小型のSAR(Synthetic Aperture Radar / 合成開口レーダー)衛星で、小型にもかかわらず、分解能1m(車の判別が可能な大きさ)のデータを取得することが可能です。またSARの特徴として、天候、昼夜関係なく地上の観測ができます。

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(※3)「SARデータの軌道上画像化装置」:
JAXAとアルウェットテクノロジー株式会社が共同開発したオンボード画像化装置です。本装置では、従来は地上の計算機で行っていたデータ処理を、FPGA (field programmable gate array)に適したアルゴリズムに書き換えてファームウェア化し、世界で初めて衛星搭載用の装置として実現しました。SAR観測データを軌道上の衛星内で処理することで衛星からのダウンリンク量の大幅な圧縮が可能となり、現在ニーズが高まっている海域観測、船舶の動静把握への活用が期待されます。
(参考) http://www.jaxa.jp/press/2020/02/20200226-1_j.html

(※4)小型SAR衛星のリスク分析支援:
JAXAが開発した安全・信頼性を向上させる仕組みである「システム視点での軌道上動作保証手法」を用いて、小型SAR衛星の設計面及び運用面でのリスク分析、信頼性向上を支援します。

■株式会社QPS研究所について
株式会社QPS研究所は、九州の地に宇宙産業が根差すことを目指して、2005年に九州大学名誉教授の八坂哲雄と桜井晃、そして三菱重工業株式会社のロケット開発者の舩越国弘により創業されました。九州大学での小型衛星開発の20年以上の技術をベースに、国内外で衛星開発や宇宙ゴミ(スペースデブリ)への取り組みに携わってきたパイオニア的存在である名誉教授陣と若手技術者・実業家が幅広い経験と斬新なアイデアをもとに、現在は世界トップレベルの衛星情報ビジネスの創造を目指しています。創業以前より宇宙技術を伝承し、育成してきた20社の九州の地場企業(北部九州宇宙クラスター)とともに人工衛星をはじめ、世界にインパクトを与える数々の宇宙技術開発を行っております。36機の小型SAR衛星のコンステレーションによる準リアルタイムマップの実現に向けたプロジェクトによってQPS研究所の技術力と志が認められ、2017年10月にシリーズA投資ラウンドで九州最大規模となる総額23.5億円を調達しました。
(参考) https://i-qps.net/