平成16年度採択案件/ビジネス提案型(旧制度)

共同研究実施体制

ユニットリーダー:(有)大平技研 大平 貴之(神奈川県)
ユニットメンバー:ソニーテクノクリエイト(株) 平間 陽一郎
JAXA研究者:産学官連携部 肥後 尚之
宇宙教育推進室 室長 渡辺 勝巳
宇宙科学研究本部 教授 海老澤 研
産学官連携部 開発員 仁尾 友美


共同研究の背景及び概要

ユニットリーダーがこれまで独自に設計・開発し、科学館などで上映してきた世界最高水準(500万個)の星を投影できる可動式プラネタリウム「メガスター」をベースに、JAXA研究成果や宇宙映像、CGを組合せて、ディジタルプラネタリウム構築を狙う。魅力的な宇宙教育コンテンツを、科学館などに提供するビジネスモデルの構築を目指す。JAXAの科学部門や教育部門と連携し、ソフトウェアやコンテンツの開発を行う。


INTERVIEW

インタビュー

「メガスター=大平」を超え本当の星空を追い続ける

プラネタリウムクリエイター
大平 貴之

小学生のころからプラネタリウムを作り続け、2004年に世界最多の500万個の星空を映し出す「メガスターⅡコスモス」を製作。「世界で最も先進的なプラネタリウム(The World's most advanced planetarium projector)」とギネスブックに登録された。プラネタリウムクリエイター大平貴之さんは今、JAXAオープンラボで夢中で取り組んでいることがある。その鍵はデジタル映像。「アナログの真骨頂」と評されるメガスターを自作した彼がなぜ?大平さんが描こうとしている宇宙を聞いた。


01. 種子島宇宙センターをヘリで空撮!?


JAXA:メガスター、種類がたくさん増えましたね。現状をお話いただけますか?

大平:まずメガスターが常に見られるのは、東京・お台場の日本科学未来館と神奈川県川崎市の青少年科学館です。実は川崎市の科学館の建て替えにあわせて、新型のメガスターⅢを本腰入れて開発しようと思っているんです。

JAXA:楽しみですね。そのコンセプトは?

大平:原型のメガスターⅠは星を何百万個映すということを初めて実現した機械。Ⅱはその星をもっと大きなドームで映したいと。だけど、どちらもまだ完成しきっていないところがあって、メガスターⅢはプラネタリウムとしての一つの完成形をめざしています。たとえば一つ一つの星の輝きの精度とかリアルさとか、それからデジタル映像ですね。あとでお話ししますが、JAXAオープンラボで研究してきた成果も生かす予定です。2010年ぐらいを目標にしていて、星の数は1000万個以上にはなるでしょうね。
 その前の短期的な目標としては、メガスターⅡの改良版「スーパーメガスターⅡ」を開発中です。メンテナンス性をよくして、細かい性能を上げて環境対応や安全規格もクリアして、科学館に販売できるようにしたい。

JAXA:メガスター、全国展開ですか?

大平:メガスターは移動公演は時々行っているものの、科学館への販売はまだまだこれからです。イメージは一地方に1館か2館ぐらい。たとえば九州1カ所、関西1カ所というのが、大型の常設館向けの目標ですね。それ以上広げるとメンテナンスも大変になります。今うちは社員を一人入れたところですが、スタッフも育てて少なくとも数人体勢にして、科学館に納入したいと思っています。

JAXA:家庭向けの「ホームスター」も話題になりましたよね。

大平:そうですね。ホームスターはピュア、プロ、ノーマルがあって、ノーマルはだいぶん販売が落ち着いたみたいですが、ピュアやプロは今も結構売れているようです。ピュアは廉価版だからある程度出るだろうとふんでました。でもプロは3万円ぐらいするんで実際どうかなと思ったんですけどね。他には学校や小型ドームで公演できる、バスケットボール大の「メガスターゼロ」も来年頭には発売にこぎ着けたいと思っています。

JAXA:かなりの忙しさですね。でも来週、種子島に行かれるとか?

大平:そうなんですよ!実は今、頭の8割ぐらいしめているのが「七夕ランデブー」という番組。元々は埼玉県の坂戸児童センターから依頼されて2006年に制作した子ども向けの番組です。種子島から打ち上げられる有人版H-2Aロケットに、子ども達がこっそりもぐり込んじゃうという話で、去年製作したときにやりきれなかったことを実現させて、今年の7月から「みらい九州子ども博」と坂戸児童センターで上映しようと、追い込みです。
 今回はとにかく宇宙センターをかっこよく見せたいからヘリを借りて空撮したり、映像に出てくる子ども達もプロダクションから選んでスタジオで撮影したり。宇宙から見た地球もCGで作って、地球からだんだん遠ざかっていく様子を全天周デジタル映像で見せる。ストーリーから撮影まで100%関わって、力が入っている分お金もかかっちゃって(笑)。

02. アナログへのこだわりは、ない。


JAXA:デジタル映像に取り組んでおられるようですが、メガスターと言えばアナログの光学式で奥行きのある天の川を実現したのが魅力の一つでした。なぜデジタル映像を?

大平:メガスターはアナログの真骨頂で、究極だという意見もあります。ただ、僕がアナログでやってきたのは、今はあのやり方でしかできないから。
 どういうものが出せるか、つまり結果が大事で、アナログかデジタルかはアプローチの違いでしかない。今はコントラストや映像のシャープさという点で、星は光学式で出したほうがいい。でもデジタルプロジェクターは進化していて、いずれ(光学と同じように)出せるようになると思う。
 デジタル映像は表現が何でもできますよね。たとえば天の川の中心がここだよと情報を出すことが楽にできるし、コンテンツを作っても面白い。その柔軟性には魅力を感じています。

JAXA:デジタル映像で大平さんが表現したいことはなんですか?

大平:最近、お客さんの声を聞いていてやっぱり思うのは、情報が欲しいんだなと。「うわー綺麗だなー。で、あの星なぁに?」と。でもそれは昔から考えていたことかもしれない。
 2000年に東京・青山のスパイラルホールでメガスターⅠを上映していたときに、夜中のテスト上映をコンパニオンの方たちに見せてあげたことがあったんです。そしたら天の川をさして「あのもやもやしたものはなんですか?」と。おいおい、知らないで仕事してたの?と半分思いながら(笑)、「あれは天の川で、2000億個の星の集まりで...」と説明したらものすごくその子たちが反応した。そのときに星が綺麗だなーというのも大事だけど、ひょっとしたら「すごい」という感覚だけだったら、猿でも感じることはあるのかもしれない。僕ら人間がさらに想いを馳せるのは、あそこに見える銀河が光の速さで3万年もかかるとか天文学の知識として入ったときに、目で見て荘厳なものが、さらに理屈でもすごいと納得できる。これは大事なことなんだなと。

JAXA:なるほど。人間のスケールを遙かに超えていることが知識で納得できる...。

大平:それは宇宙に限らなくて生物でも何でもいえるかもしれない。だけど宇宙に関しては、宇宙の彼方にこれだけの広がりがあって、ぼくらがなぜ生まれてきたのかとか、この世界がなんで存在するのかとか、人生観とか哲学にもつながってくるわけですから。
 だからぼくは情報も提供したい。メガスターは学生の頃にやりたかった、一つの究極の形ではあるけど、星の数を何百万個に増やしてリアルにする、それだけが僕のプラネタリウム作りではないんです。

JAXA:デジタル映像という既に次の目標に向かっているわけですね。

大平:メガスターは宇宙を表現するための一つの道具、ツールであって、プラネタリウム番組制作者としての大平がメガスターをどう位置づけるかは、脇役にすることもあるし、主役にすることもある。例えば「七夕ランデブー」がメガスターの価値を十二分に生かした作品かといえば、そうではない。そこに自分としては違和感を感じていない。
 ただ悩ましいのは、「メガスターの大平」というイメージがついて回ることです。デジタル映像でぼくがやりたいものを純粋にやっても、メガスターの星空をもっと見せてほしいという声が結構多い。それはある種のジレンマにもなっていますね。メガスターはメガスターだと。デジタル映像はデジタル映像でやりたいんだと。やらせてくれと。

03. メガスターの星空に、アマチュア天文家の投稿画像が!


JAXA:JAXAオープンラボでは、そのデジタル映像で新しいサービスを始めようとされているそうですね?

大平:最初に考えたのは、メガスターの星空にデジタル映像を加えること、さらに例えば映像の中の星をクリックすると、拡大された画像がバンと出てくるようなデータベースを作れたら面白いだろうなということです。たとえばプラネタリウムの解説員が「オリオン座星雲を見てみましょう」とマウスでクリックすると、拡大画像が映し出されて「これは昨日投稿されたばかりのオリオン星雲の写真ですね」とかね。アマチュアの天体写真家の方が作品を発表する場になればいいと思うし、もちろんJAXAや国立天文台の画像もデータベースに入れて、最新の研究成果を広めるのにも役立つだろうし。
 そんなことを打ち合わせで話していたら、JAXAの宇宙科学研究本部の海老沢先生が、「FITS(フィッツ)という画像用のデータフォーマットがあるよ」と教えてくれたんです。

JAXA:FITSってどういうものですか?

大平:FITSは天文学者の間で画像データを交換するために作られたフォーマット(形式)で、天文学者の間で広く使われているものです。たとえば撮影した画像の中心の赤経赤緯とか撮影日時とか、画像の情報を入力することができるんです。使いやすいように、ある程度自分で入力用の見出しを作ることもできる。すでに膨大な画像データがあって、しかも音楽や映像は著作権の問題がありますが、天文の世界は研究用なら無償で引用してもいい文化があると。
 その膨大な画像データをプラネタリウムで生かすことができないかなと調べてみると、誰も使っている人がいない。じゃあ、まずオープンラボの研究テーマの中で実現してみようと思ったんです。
 まずは今ある画像データでデータベースを作っているところです。将来的には天体写真家に投稿してもらったり、JAXAの画像データを入れたりして検索しやすいようにして、プラネタリウムの上映に使ったり、ウェブサイトの中で一般の人が楽しめるようなサービスとして実現したいと思っています。

JAXA:ウェブサイトで、ですか?

大平:今、マイクロソフト社の協力もあって、ウィンドウズビスタ(Windows Vista)で三次元の星空を見られるウェブサイトをオープンしはじめた所なんですよ。ドメインはmegastar.jp。メガスターの上映館は限られていますが、ウェブでもメガスターの番組を見られるようになるわけです。さらにFITSデータのデータ配信が始まれば、メガスターの星空を見ながら、「この星何?」と天体をクリックすると画像が拡大して、情報とともに表示されるようになる。
 今は星空だけの試験的な公開ですが、夏以降にはFITSデータを使ってさまざまな表示もできるようにしたいですね。
 ウェブサイトが無償で公開されると利用者が増えますから、そこで画像を投稿してもらって双方向につながるようにしたい。JAXAをはじめとする研究機関の成果の有効活用にも、アマチュア天文家の作品発表の場にもなり、これがメガスターの表現力の大きな向上にもつながると思っているんです。ウェブは、丸天井いっぱいに広がる本物のメガスターの表現力をそのまま再現することはできませんが、興味を持った人がより多くメガスター館に足を運んでくれるようになるでしょう。

JAXA:色々できそうですね。オープンラボは今年度が最終年度ですが、今後の予定は?

大平:FITSデータを表示するには、まず全天周のデジタル映像が必要で、それはほぼ技術的に確立しました。あとはFITSのデータベースを作って、ウェブで表示して、それをメガスターのドームでテスト上映してβ版ができるところまで今年度中にやる予定です。
 その後は各地のプラネタリウムで使ったり、今プラネタリウムバーもできていますが、そういうところに日替わりで天体画像をセレクトして、自動的にFITSデータを配信したりできるといいなと。人を増やさないとできないですけどね(笑)。

04. 自分を高めるしかない


JAXA:ビジネス上の課題と感じていることは、なんですか?

大平:本質的な課題は、個人プレーからチームプレーへの移行ですね。一人でできる限界を超えちゃってますから。物理的にも、発想的にも。2、3年後には10人ぐらいには増やしたい。ただ個人でやってきたよさもありますよね。フットワークの軽さとか、「こんなこと普通やらないような」というところをやってしまう、とんがった部分とか。
 そういう部分を残しつつ、組織としてサービスとして安全性とか信頼性とかを提供できる体勢にしていくことは、月並みながら必要だと思います。ぼくが脳溢血で倒れても(笑)、他のスタッフがきっちりやってくれるようになって会社として一人前だと思いますし。

JAXA:実際に、2005年3月から大平技研という組織になって、今年社員も入りました。一人でやっている時と変わったことはありますか?

大平:自分でも驚くほど意識の変化はないかもしれない。本質的にお客さんを満足させたいということが、商売以前の心の喜びとして子どもの頃からずっとあるし、それと自分で思い描いた世界を表現したいというのが車の両輪としてあるのは変わらない気がする。
 ただ、お客さんの評価にさらされる機会が多くなったし、メガスターがギネスに登録されたことでお客さんの要求が厳しくなったのは感じますね。

JAXA:世界で最も先進的なプラネタリウムですからね。

大平:だから最高のものを期待して来られるわけですよ。昔は個人が作ったにしてはよくできているな、と言われていたのに、今はアメリカのヘイデンプラネタリウムの方が映像が綺麗だよねとか、CGにしても映画「ターミネーター3」のほうがよくできてるとか。「ハリウッドと比較しないで」というのはこっちの勝手でしかない。
 そしたらギネスの名に恥じないように、自分を高めるしかないじゃないですか。

JAXA:世界一という評価に対して、ご自分ではどう思われているんですか?

大平:本心で言えば、本当に世界一のプラネタリウムかと問われれば、わかりません。世界一星の数が多いっていうのはいいと思うんですけど、「世界一先進的だ」と言い切られていますよね。総合的なプラネタリウムとして優れているか、という点では機械としての細かいところの完成度もあるでしょうし...。まだメガスターは発展途上です。プレッシャーを感じることもありますけど今は胸を借りてやっていこうと。メガスターⅢは、誰にも文句を言わせないようなものにしたいと思っています。

JAXA:プラネタリウム業界の現状は意識していますか?

大平:それは意識します。今はいろんな意味で過渡期ですよね。急激なデジタル化です。日本の2大プラネタリウムメーカーは結構アメリカのデジタルの技術を導入しています。それも一つの戦略だと思います。アメリカはコンテンツがスゴイですから。
 日本では国立天文台の四次元デジタルシアターが、独自路線でがんばってますね。
 ぼくは、日本人ならではのプラネタリウムの付加価値を出していきたい。なぜメガスターが欧米でなく日本で生まれたかと言えば、日本人の感覚のなせる技だという部分があると思う。目に見えない暗い星まで表現するという。それはデジタル化でもどういう手段で表現されるにしても同じ事で、日本としてのオリエンタルなメガスターコンセプトを世界に打ち出していきたいと思います。本当の星空の「質感」のようなものを。

JAXA:ところで、大学時代まで本格的に取り組んでいたロケットはやらないんですか?

大平:去年、種子島で「きく8 号」の打ち上げを見て、JAXAの方にどうですか?またロケットやりたくなりましたか?と聞かれたんですけど。完璧だったんです。打ち上げが。打ち上げの延期はありましたけど、みんなが首尾よく動いていて、俺には無理だ!と。なんか怖じ気づいちゃったんですよね(笑)。でもなんかやりたい。

JAXA:アメリカの民間賞金レースXプライズに参加したらどうですか?

大平:やってみたいなー。血が騒ぐと思いますよ。大平技研を誰かに売らないと...でもがんばってやりましょうか!

大平 貴之オオヒラ タカユキ

1970年 神奈川県川崎市生まれ
1991年 個人製作は不可能と言われたレンズ式プラネタリウム「アストロライナー」を製作
1996年 ソニーに就職
1998年 170万個の星を投影し、重さわずか30kgの移動式プラネタリウム「メガスター」を公開
2003年 星の数を 410万個に増やした「メガスターⅡ」を発表
同年 同年ソニーを退職、フリーのプラネタリウムクリエイターに
2004年 星の数を500万個に増やした「メガスターⅡコスモス」の常設投影が日本科学未来館で始まる
2005年 (有)大平技研設立。同年7月からJAXAオープンラボ「プラネタリウムを活用した宇宙エンターテイメントビジネス」ユニットリーダー

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