JAXA
Sessionsセッション紹介

超小型衛星による恒星間天体探査

①(代表)河北秀世,②船瀬 龍,②中島晋太郎,②尾崎直哉,③笠原 慧,③吉岡和夫,④坂谷尚哉,④亀田真吾
①京都産業大学,②JAXA,③東大,④立教大
概念検討中

概要

近年,太陽系外から飛来する恒星間天体が地球近傍で相次いで検出されたことで,その素性に注目が集まっている.こうした天体の組成が分かれば,太陽以外の惑星系での惑星形成環境が推定でき,太陽系の普遍性・特異性を検証できる. 突発的天体であるため,打ち上げを含めた探査のアーキテクチャ設計にチャレン ジ性があり,超小型探査機の機動性がミッション実現の鍵となると期待される.

本ミッションの狙い

恒星間天体(太陽系外の物質を保持する小天体)の直接探査という前例の無いミッションであり, 小天体表面の探査および小天体から放出されるガスのin situ測定によって,太陽系外惑星系における原始惑星系円盤内での惑星形成過程を,太陽系と直接比較する.

実現のキーとなる要素技術

現状のテクノロジーでも原理的には可能.以下が,高頻度の機会獲得の鍵である:(a)突発的に現れる天体に対するアジャイルな運用計画の見直し,(b)超小型推進系/ソーラーセイル技術(~年間数十m/s),(c)フライバイ機会を増やすために自律化を駆使した複数機同時運用技術.

衛星のスペック

・サイズ:12U(20kg)以上
探査機数:1~12機(機会獲得確率とのトレードオフ)
・投入したい軌道:小天体フライバイサイクラー軌道(Ozaki+2021)※など
・推進:ソーラーセイル(or 電気推進)
・姿勢:フライバイ時に対象天体を撮像できること.
・通信量:フライバイ時のデータ100MByte程度をDLしきれること.

※数年に1度の頻度で小天体フライバイ・地球スイングバイを行う軌道.待機中も数多くの小天体フライバイができるという利点がある.小天体フライバイサイクラー軌道以外にも,EML2/SEL2で待機するオプションも考えられる.

衛星のイメージ図

例としてComet Intereceptor B1の概要図を示す。

ミッションのイメージ図

開発状況・計画

同様なミッション・アーキテクチャで長周期彗星を探査するComet Interceptor(子機B1:JAXA提供)の技術を継承し,小天体フライバイサイクラー軌道も視野に入れた概念検討中.12U級の探査機で3?5kg程度の観測機器を搭載できる見通しである.3~5kg程度の観測機器で実施可能なサイエンスも並行して検討中.

ミッションや技術詳細

近年, 1I/`Oumuamua(Meech+2017)や2I/Borisov(Guzik+2020)といった太陽系内部を通過する恒星間天体が相次いで検出されたことで,その素性に注目が集まっている.こうした太陽系外の天体の組成が分かれば,太陽以外の惑星系での惑星形成環境が推定でき,太陽系の普遍性・特異性を検証できるからである.実際,2I/Borisovでは電波(Cordiner+2020)や紫外線(Bodewits+2020)によるリモート観測から,太陽系の彗星に比べて突出して高いCO/H2O比が得られており,微惑星の低温環境での形成が示唆されている.また、1I/`Oumuamuaについては,太陽系の彗星と全く異なり,H2の氷(Seligman&Laughlin2020)やN2の氷(Jackson&Desch2021; Desch&Jackson2021)を多く含むという予想もある.残念ながら,これらの観測は全て地上および地球軌道近傍からのリモート観測の結果であり,探査機による「その場」観測は皆無であって,天体核の直接撮像や太陽系外物質の詳細な分析は実現できていない.
 一方,太陽系外の惑星系形成環境である原始惑星系円盤(とくに円盤赤道面)についても直接探査は不可能であり,太陽系内に飛来する恒星間天体に対して,天体核近傍からの表面の撮像・分光観測,および放出ガスの直接観測を行ない詳細なデータを得ることができれば,太陽系外惑星系の始原的環境について,さらに踏み込んで議論することが可能になる.
 こうした恒星間天体の検出頻度(観測機会)は現状で予想が難しく,今後の地上大型望遠鏡(Vera Rubin天文台など)によるサーベイ観測の結果が待たれるところであるが,その間,地上観測の計画とともに,宇宙機による探査の検討を進めておくことが重要である.地上での待機はもちろんのこと,現在準備中のComet InterceptorのようにSEL2(太陽-地球ラグランジュ点L2)で待ち受ける方式(Snodgrass&Jones2019),EML2(月-地球ラグランジュ点L2)あるいは月ゲートウェイの利用,さらに小天体フライバイサイクラー軌道(Ozaki+2021)での小惑星探査をしながらの待ち受けなど,複数のオプションがあり得る.恒星間天体の飛来を待つ期間の観測も含めて,広いスコープでのミッション設計の余地もある.
 搭載観測機器については,可視光高解像度カメラ・広角カメラ、紫外線(Lyアルファ)カメラ、イオン質量分析器および磁力計等(これらはいずれもComet Interceptor探査においてJAXAが担当する子機/B1に搭載されているもの)に加え,超小型衛星に搭載可能な赤外線高分散分光器を新規に開発して搭載することを検討している.以上の搭載機器によって,恒星間天体表面の直接撮像(可視光高解像度カメラ)、恒星間天体からのダスト放出活動(可視光広角カメラ)、ガス放出活動(紫外線カメラ)、各種同位体を含むガス成分の詳細分析(イオン質量分析器,赤外線高分散分光器)を,フライバイ探査により実施する.

参考文献など

N. Ozaki, K. Yanagida, T. Chikazawa, N. Pushparaj, N. Takeishi, R. Hyodo, Asteroid flyby cycler trajectory design using deep neural networks (2021). arXiv:2111.11858.
C. Snodgrass & G. Jones, The European Space Agency’s Comet Interceptor lies in wait (2019), Nature Comm., 10, 5418.
K. Meech et al., A brief visit from a red and extremely elongated interstellar asteroid (2017), Nature, 552, 378.
P. Guzik, et al, Initial characterization of interstellar comet 2I/Borisov (2020), Nature Astronomy, 4, 53.
D. Seligman & G. Laughlin, Evidence that 1I/2017 U1 ('Oumuamua) was Composed of Molecular Hydrogen Ice, ApJ, 896, L8.
A. P. Jackson & S. J. Desch, 1I/`Oumuamua as an N2 Ice Fragment of an exo Pluto Surface: I. Size and Compositional Constraints (2021), JGR, 126, e06706.
S. J. Desch & A. P. Jackson, 1I/`Oumuamua as an N2 Ice Fragment of an Exo Pluto Surface II: Generation of N2 Ice Fragments and the Origin of `Oumuamua (2021), JGR, 126, e06807.
M. A. Cordiner et al., Unusually high CO abundance of the first active interstellar comet (2020), Nature Astronomy, 4, 861.
D. Bodewits et al., The carbon monoxide-rich interstellar comet 2I/Borisov, Nature Astronomy, 4, 867.

動画

講演資料


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