2019.07.11NEWS
民間による日本最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2019」に J-SPARCプロデューサーらが登壇
エンタメ、教育、食事の観点からこれまでにない新しい宇宙ビジネスの可能性について議論
2019年7月9日に開催された、民間による日本最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2019~加速する宇宙ビジネス、その構想がカタチになる~」(JAXAも後援)に、中村雅人理事、若田光一理事、菊池優太J-SPARCプロデューサーが登壇し、JAXAにおける取り組み紹介と今後の宇宙ビジネスの展望について議論いたしました。
●PANEL 1:『各国の宇宙産業エコシステム形成』(中村雅人理事 登壇)●
モデレーター石田真康氏のもと、どうしていま宇宙ビジネスが盛り上がっているのか、商業宇宙/パートナーをどう見ているのか、そしてエコシステムとしてどうなっているのかなどについて議論しました。
登壇した中村理事からJAXAの宇宙ビジネスに係る取り組みを紹介したうえで、
「やってみようという熱意が基礎にあり、そして小型ロケット、小型衛星など技術も手に届くところまで近づいてきていることもあり、宇宙ベンチャーが多く生まれている。」
「日本には幅広くプレーヤーもいる。身近なところでは、宇宙食のノウハウを生かして防災食ビジネスを構想するベンチャーや、宇宙食料マーケットを創出する活動(Space food X)も動き出している。パートナーとしてのJAXAは、技術で支援し、ベンチャーが日本から世界へ出ていくことも後押ししたい。」
「JAXAでは、企業ニーズに技術で応えていくJ-SPARCもあれば、JAXAにニーズがあり宇宙・地上への事業活用を目指す宇宙探査イノベーションハブのプログラムもある。このような様々なプログラムを通じて、政府が目指す産業振興にも応えていきたい。」
「JAXAは引き続き技術でベンチャーをサポートしていくが、今後は、金融機関や大学、これまで宇宙開発に取り組んできたエスタブリッシュドスペース企業、そしてかかわりのなかったプレーヤーも含めて、日本のみならず国際的にも共同でやっていくことも重要」
との考えを述べました。
●PANEL4 :『50周年…勢いを増す月ビジネス』(若田光一理事 登壇)
モデレーター佐藤将史氏のもと、なぜ今 「月」がホットなのか、誰/どのプロジェクトがリード役になるか、月面はどう発展していくか、長期的な開発継続の要件や異業種産業による参画の在り方などについて議論しました。
登壇した若田理事は、JAXAの有人宇宙技術や宇宙探査に係る取り組みを紹介したうえで、
「米国は1969年から月に人類を12名送り、月の様々なサンプルも回収したが、科学的にも特段の進展ないままだった。その後、月周回衛星などで月のデータを得ることができ、事業的側面からも興味の対象となりつつあること。月への輸送についてもプレーヤーが増えつつあること。宇宙を民間が使う機運が高まりつつあること。そして、米国政府も2024年に米国人を送る方針を示したことなども再び月が注目されている理由である。」
「火星を目指すのは、人類の文明、存続のため、生存を維持するため。将来、月から火星へと持続性をもって進め、高めていくことも重要。」
「地球低軌道(LEO)もSpaceBD社などに民間開放しているが、月も同じように企業が参画していくことが望ましい。そのためにもJAXAは、必要な法的な整備も含め、事業性あるものを支えるイネーブラー(Enabler)であるべき。」
「サスティナブルな活動のためにも、産学官の連携が大事でベクトルを合わせなくてはならない。事業性をもって、月、そしてその先に、多くのプレーヤーが参画していくのは望ましい。」
との考えを述べました。
●PANEL 7:『人の歓び・遊び・学びを変革する宇宙ビジネス』(菊池優太プロデューサー 登壇)●
WIRED日本版編集長・松島倫明氏がモデレーターを務め、エンタメや教育、食事などの観点から、これまでにない新しい宇宙ビジネスの可能性について議論しました。
登壇した菊池プロデューサーから食分野への取り組みを紹介したうえで、
「将来の宇宙での食卓イメージを描くとき、よりリアリティを持たせるために6人のクルーの国籍や性別、専門などキャラクター設定を行うことなどはこだわった。また、食といっても栄養やおいしさだけでなく、極限な環境下だからこそ、人工培養肉など地産地消型の食料生産技術、さらにはアバター技術、VR技術など組み合わせることで、究極の単身赴任ともいえる宇宙飛行士をサポートするイメージなども表現し、今年3月のSpace Food X(SFX)発足イベントにて発表。日清、ハウスなどの食品メーカー、極地生活経験1,000日を越える村上祐資さんなども参画し、工夫している知恵・ノウハウを共有し、無機質になりがちな宇宙船内、宇宙基地に食で彩りを添えられるよう、日本特有の文化も含めいろいろな切り口で検討している。」
「「宇宙ならでは」という意味では、向井千秋さんは”地球見うどん”、SFX代表の小正さんは月面で地ビールを呑みたいと…重力が1/6にならば、新しい食べ方もあるだろう。職業としての宇宙飛行士と、例えば11日間月周回を行う宇宙旅行者ともニーズは異なる。それぞれに応じて、最も新しいテクノロジーを駆使して、食分野におけるバリエーションを増やしておくことが宇宙でのQOL向上にもつながる。」
「宇宙開発と地球におけるSDGsの取り組み両輪でのアプローチも意識している。特に、日本にいるとフードロスなどの食料問題を肌身で感じることは少ないが、それをF1的に宇宙のエクストリーム環境をゴールに設定し、その課題に向かって取り組むことが、地球上の生活をバージョンアップすることにもつながる。消臭下着は当初はあまり売れなかったものが、宇宙の視座・価値観を加えることで宇宙下着として売り上げが大きくあがったことはその一例。」
「宇宙に行くことは安全面のハードルもあるので、例えば、アバターを積極的に活用しながら生活者参加型での可視化に取り組み、みんなの共感を得て、多くの人が自分ゴト化することで、結果的に日本における有人宇宙活動が加速することもあると考えている。いまは、クラウドファンディングのような仕組みもあるので“参加できる”宇宙開発という点でもエンタメ領域にはポテンシャルがある。」
「宇宙ビジネスとしてのリアリティをあげていくという点では、まずは未来をビジュアライズ(可視化)すること。そしてプロダクトをまず作ってみること、食はそれを実際食べることができるという点で大きい。最後にマーケット規模を数字として見せていくこと。仮に、月に1000人滞在するとなった場合、そのマーケットは食市場だけで2,600億円(国内納豆市場と同等)、サプライチェーンで5,000億円、地上の波及効果も含めると2兆円超と三菱総研が試算している。これらを通じて、企業の新たな参入、生活者の巻き込みを目指したい。」
「自分の夢は月面オリンピックの実現、これこそが究極のエンターテイメントであり宇宙ビジネスである。」
との考えを述べました。
今後、JAXA新事業促進部は、宇宙ビジネスが、日本において大きな産業となり、身近なところに宇宙事業・宇宙(JAXA)技術があふれている世界を目指すとともに、宇宙探査・軌道上サービス分野など将来のJAXAの主軸となる官民連携プログラムの創出にも取り組んでいきます。