2022.07.25NEWS
近くのSHOPに宇宙発の商品を~「JAXA LABEL」始動~
2021年は「宇宙旅行元年」とも呼ばれる。宇宙旅行者が様々なビークル(乗り物)で宇宙を旅し、その数は職業宇宙飛行士を上回った。今後は確実に宇宙が一般の人たちに開かれていくだろう。
でも、日常の暮らしの中で、宇宙が身近になったと感じる機会はあるだろうか。例えば、ふだん行くスーパーで、「宇宙発」の商品が並んでいることはあまりない。「近くのお店に『JAXA LABEL』のロゴが入った商品が並んでいたら、『何だろう、これ』とか『へー、こんなのがあるんだ』と宇宙に興味がない人でも手に取ってもらえるかもしれない。宇宙を身近に感じてもらえるようにしたい」。そう語るのがJAXAの吉原亜弓さんだ。
JAXAは2022年5月、「JAXA LABEL」の始動とロゴを発表した。JAXA LABELとは、JAXAの成果を活用した商品やJAXAとの共同研究により開発した商品などをブランド化したもの。例えば、NASAのスピンオフ商品では、ロケット打ち上げ時の重力緩和素材から生まれたテンピュール素材、日本でも固体ロケット分離点火技術から生まれた自動車のエアバッグなどが知られる。
企業等がJAXAに申請し認証を受けることで、JAXA LABELのロゴをつけることができる。ロゴをつけることによって企業が技術力や信頼性をアピールし、イメージアップや販売促進につなげてもらおうというものだ。
[視点を変えると立体的に見えることから、空間を押し広げるイメージを表す。LABELが拡がることで新しいビジネス経済圏が拡大することを想起させたいという願いが込められている。]
実はJAXAは2008年に同様の目的で「JAXA COSMODE(ジャクサ・コスモード)」というロゴ(商標)をスタートさせた。だが、COSMODEが作られた頃と今とでは宇宙開発を取り巻く環境は劇的に変化し、COSMODEの課題も見えてきた。そこで新しく「JAXA LABEL」を立ち上げることになったというわけ。吉原さんは担当者として約2年間、「JAXA LABEL」立ち上げに奔走してきた人物だ。狙いや想いについて聞いた。
●なぜ今、新しいロゴに?なぜ今、新しいブランドを立ち上げたのですか?
「2008年にCOSMODEが始まってから10年以上経っています。2018年にJAXAでJ-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)が立ち上がり、民間企業とJAXAが共創して新しい宇宙関連事業の創出を目指す研究開発プログラムを実施しています。たとえば最近は、日用品や食品メーカーさんなどとJAXAの共創が増え、宇宙だけでなく地上での製品化が、より広がってきています。このタイミングでより波及力のある、存在感のあるブランドに育てていきたいというのが最初の思いです」(吉原さん)
JAXAと民間企業の共同研究と言えば、以前はテクノロジー関係の企業が多かった。例えば、H-IIAロケット先端部のフェアリング用に開発した断熱材の技術から、住宅用の高性能塗布式断熱材「GAINA」(日進産業)が生まれ、COSMODEロゴがつけられている。COSMODE始動から10年以上が経った今、その流れを引き継ぎつつ、新たなブランドを改めて立ち上げることとなった。
宇宙開発の流れが変わるきっかけの一つが、政府が2017年に発表した「宇宙産業ビジョン2030」だ。2030年代早期に国内の宇宙産業の市場規模を2.4兆円に倍増する目標が掲げられた。翌2018年にJAXAは民間事業者と共創で新しい事業創出を目指すJ-SPARCをスタート。これまで宇宙事業に関わったことのない企業とも新しい発想で多彩な共同研究を進めている。
吉原さんが言うように、最近は宇宙旅行時代を見据え、衣食住関連の企業が宇宙に積極的に関わり始めている。JAXAは新たな商品の宇宙での実証機会を得ようと、宇宙と地上の課題を解決する新たな生活用品のアイデアを2020年に募集、集まった94件の中からISSへの搭載品9品を選定した。2022年秋以降に、ISS(国際宇宙ステーション)に滞在予定の若田光一宇宙飛行士が実際に使用する予定だ。
9品には、例えば、水がいらない洗髪シート「3D Space Shampoo Sheet」(花王)、飲める歯磨き粉「オーラルピース」(トライフ)、タブレット型ハミガキ&マウスウォッシュ「mouthpace(マウスペース)」(TSUYOMI)などがある。
これらの商品は宇宙飛行士や宇宙旅行者が使うことはもちろん、地上の課題解決も目標に据えている。例えば、高齢者や身体の不自由な方に、あるいは災害時の避難所で。アイデア募集から地上・宇宙実証の一連の流れは、宇宙飛行士のミッションを支える有人宇宙技術部門と、暮らし・ヘルスケア分野のビジネス創出を目指す新事業促進部のJ-SPARC「THINK SPACE LIFE」プラットフォームがタッグを組んで行っており、今回選ばれた9品の中には企業や宇宙関係者らが参加するワークショップから生まれたアイデアもある。花王やライオン、スノーピーク、ワコールなど多くの生活に関連する企業が関わっていることから、これらの店やドラッグストアなどに、今後、JAXA LABELの商品が並ぶ可能性も期待できるだろう。
● JAXA LABELの3つのカテゴリ
こうした変化を見据えて、宇宙発の商品を気軽に手に取ってもらい、世の中にもっと宇宙を広めるべく新しく「JAXA LABEL」を立ち上げた。同時にJAXA COSMODEの課題を解決した。
課題の一つはカテゴリ分け。「COSMODEではJAXAとの共同研究により開発した商品も、JAXAの画像を使った商品も同じロゴマークをつけていました。そもそもCOSMODEとは何か、JAXAとどういう関りがある商品につけているのか、イマイチわかりにくいという声があった」と吉原さん。
JAXAと企業との関り方には色々ある。JAXAの成果(特許、実用新案)などを活用したもの(先に紹介した「GAINA」など)、JAXAとの共同研究から生まれたもの(消臭アンダーウェアなど)、JAXAの画像などを使ったグッズ(マグカップや「はやぶさ2」の模型など)。
JAXAとどのような関わりを持って生まれた商品なのか、どのような成果を使っている商品なのか等が、商品を手にとった方からも分かりやすいようにしたいという思いがあった。
そこでJAXAレーベルでは3つのカテゴリを設けた。TECH(特許、実用新案、論文等のJAXA成果の活用)、COLLAB(共同研究、宇宙日本食認証制度、J-SPARC等)。そしてDESIGN(画像、映像等の著作権活用等)。ロゴマークも3種類のバージョンを準備。
もう一つの課題が認知不足の解消だ。「今までは申請があったものに対して許諾するといういわば事務的な手続きに留まってしまっていた。でも、今後はJAXA LABELの商品をJAXAからも積極的に紹介し、よりJAXA LABELの存在を知って貰い、もっと使ってもらえるような活動をしていきたい。」
今までが「守り」だったとしたら「攻めて」いきたい。具体的には企業とのコラボや、毎年「JAXA LABELアワード」を授与し、ブランドの認知向上をはかることも検討中だという。イメージするのは、グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会主催)だ。
吉原さんは法学部出身。
●かっこいいブランドにしたかった。
「宇宙関係の漫画や映画などに影響を受けた、割とミーハーな学生だった」と振り返る。祖母の家が歴代の固体ロケットを打ち上げてきたJAXA内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)近くにあって、見学に行ったのが宇宙に興味を持つ原体験だ。JAXAに入って「宇宙って意外と近いと感じた。夢物語でなく、宇宙を身近に感じてもらえるような活動ができれば」という想いからJAXA LABEL立ち上げに心血を注いだ。
実は今のロゴマークについて「よく知らない」と言われたことが一番のモチベーションだという。「もっとかっこいいブランドにしたかった。ロゴをつけていたら『あ、JAXA LABELじゃん!』って言われるような」。
「自分が行くスーパーとか百貨店とか、身近なところにJAXAレーベルの商品が並んで、宇宙に興味がない人も日常の中で手に取ってもらえるようにしたい」。目標は、ロゴの数を現状の倍にすることだ。
宇宙は特別なところ、JAXAは敷居が高い。そんなイメージをJAXA新事業促進部では変えようとしている。部員たちは「民間企業に寄り添い過ぎと言われるぐらい寄り添うように」という想いで業務に臨んでいるという。「産業振興や宇宙利用拡大の一つのカードとしてJAXA LABELを広げていきたい」吉原さんはそう願っている。
(レポート:ライター 林 公代)
【関連リンク】
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