フィジビリティスタディフェーズ
高精度到来方向推定法に関する基礎検証

ユニットリーダー:(有)エム・ティ・プランニング 代表取締役 三澤純子
ユニットメンバー:日本電気(株) 公共ソリューション事業部 エキスパート 川井龍一
(株)アエルプランニング 代表取締役 甲田展子
国立天文台 天文情報センター 永井智哉
JAXA研究者:宇宙科学研究所
宇宙科学情報解析研究系 海老沢研、山本幸生、三浦昭
宇宙利用ミッション本部 地球観測研究センター 祖父江真一
JAXAが取得した科学衛星データを利用した宇宙探索ウェブ検索システムを研究開発する。ユニットリーダが得意とするウェブ技術を応用し、大量データをダウンロードしなくても、ブラウザを用いて天体の画像、エネルギースペクトル、光度曲線などを簡便に閲覧できるシステムを開発する。この開発を通じて、システムを利用するユーザ層を拡大する方策を研究し、科学衛星データを活用する市場開拓を行なう。
有限会社エム・ティ・プランニング代表取締役 三澤純子
JAXA:なぜ宇宙のウェブサイトを手がけることに?
三澤:お月様が好きで、満月が出れば集まって月見の宴をするのが大好き。デザイン関係の仕事なので、呑みながら話しをする中で新しいアイデアを出したりネットワークを広げたりするのですが、そのきっかけとして月があった。2007年に月探査機「かぐや」が打ち上げられたので、これはぜひ「かぐや」が撮った月の写真を見ながら呑もうと。
それでJAXAのアーカイブを探したのに、月の写真データにたどりつけなかったんです。当時「かぐや」はデータを公開する前だったので画像がないのはやむを得なかったのですが、他の衛星の観測画像も完全に研究者向けで、欲しい情報にたどりつけない。これはもう少しわかりやすくして頂けないだろうかと思って、文句を言ったんです(笑)。
JAXA:元々、何を得意とする会社だったんですか?
三澤:そもそもはメディアテーブルというテーブル型の情報端末をデザインし、商品化したのをきっかけに会社を設立しました。メディアテーブルはタッチパネルが組み込まれたガラステーブルに情報コンテンツを投影して、博物館やショールームのコーナーを作っています。例えば「船の科学館」では海底探査のコンテンツというように。インターフェースデザインという領域で、ハードもソフトも企画・デザインできるのが強みで、リニアモーターカーまで作ってしまったんです。
JAXA:それで、宇宙オープンラボではまず何をすることに?
三澤:宇宙科学研究本部の海老沢研先生がちょうどDARTS(宇宙科学データアーカイブスhttp://darts.isas.jaxa.jp)のウェブサイトを使いやすくしたい、というご要望を持っていたので、私たちのニーズとマッチしました。そこで、JAXAが科学衛星で取得したデータを利用した「宇宙探索ウェブ」を共同で研究開発しようという目標をたてたんです。
JAXA:まず何からとりかかったんでしょう?
三澤:X線天文衛星「すざく」のデータを可視化することです。すでに海老沢先生がDARTSで「UDON」という名前のプロジェクトを開始し、「すざく」のカラー画像を表示できるようにしていたのですが、表示した画像から、さらに好きな領域や天体を選んでエネルギースペクトルやライトカーブを見せられるようにしました。
というのは、研究者達が画像の次に知りたいのは、スペクトルとライトカーブ(変光曲線)なんです。スペクトルは輝線が鉄や酸素などの元素に対応するわけで、物質がどうなっているかなどがわかるし、ライトカーブによって天体の活動の様子がわかる。それらをブラウザを使って手軽に見られるようにしたいという要望が研究者側にあったので、共同で開発しました。
JAXA:制作にはかなりの知識が必要ですよね。
三澤:メンバーみなで一生懸命、勉強しています。一つ一つのデータはFITSという天文学の共通ファイルで格納されていますが、最初はFITSデータの読み方がわからない。それに銀河座標とか天文学の基礎知識も足りない。メチャクチャ苦労しました。
でも全部を理解するのは不可能なので、一般の人に何が必要かという観点で見ています。データの中には「すざく」の観測上必要なものが入っていますが、それは専門家以外必要ない。一般の人向けに楽しいだろうという思われるところを膨大なデータから抽出することが大事ですね。
JAXA:UDONはまずは研究者向けということですね
三澤:段階的に考えています。 DARTSは研究者向けのサイトなので、研究者のニーズに合わせて「UDON」が開発されています。でも、科学館や博物館の学芸員、プラネタリウムの解説員の方々など、宇宙の教育・普及に取り組んでいる方々が衛星データを使ってわかりやすく話すことができないと一般におりていかない。その道筋を作らないといけないと思ったんです。
JAXA:具体的には?
三澤:研究者向けに開発された「UDON」を宇宙教育の方達にも利用しやすいように入り口を作ったのが「X線で宇宙を見る」です。X線衛星ROSATが取得した全天画像を表示し、その上に「すざく」の観測地点をプロットしました。さらに観測地点を「ブラックホール」や「超新星残がい」など、天体の種類によって分別したんです。それぞれの天体が宇宙全体の地図の中でどこにあるのか、改めて把握できると思います。
また、「すざく」の画像とリンクして、スペクトルやライトカーブの簡易解析も体験してもらうことで、宇宙科学研究の一端をのぞいてもらおうという試みです。
今デジタルプラネタリウムが増えていて、X線や赤外線で撮った写真を全天で表示することも可能になってきています。そこに「すざく」や赤外線天文衛星「あかり」が撮影した宇宙の画像をのせていけるとリアリティがあるしわかりやすい。ニーズはすごくあります。
JAXA:その先に、一般向けがあると。
三澤:そう。遊びの世界でも宇宙はすそ野が広いですよね。たとえばこの「あかり」のはくちょう座の画像はお洋服やバッグにしたってカッコいいでしょう。でも、このデータがどこにあるかは、今、ファッションデザイナーは絶対に探すことができない。
JAXA:一般向けと言えばメディアテーブルを使った「月の歩き方」が好評だったようですね
三澤:2008年秋に「かぐや」の一周年記念イベントがあったので、「かぐや」のデータで展示をしてみましょうと作ったのが「月の歩き方」です。月全体を世界地図のように展開しています。好きな場所を拡大縮小できて、クレーターや海などをさわると「かぐや」が撮影した映像やデータ、月の地名の由来になった科学者のプロフィールなどを見ることができます。子ども達が特に喜んでくれましたね。
JAXA:色々なプロジェクトが走って、もちろん本業もある?
三澤:はい。正社員6人の会社ですが私自身が100パーセント宇宙にどっぷりで使い物にならない。「社長は宇宙に行ってます」と言われてすごい迷惑をかけている。でも面白いですね。単独でなくJAXAとの共同研究という形をとれたことで、大本のデータでお話しができるのはうれしいことです。
JAXA:今、とりくんでおられることは?
三澤:宇宙探索ウェブの制作です。宇宙全体を俯瞰するような地図をまず出して、「この衛星の写真を見たい」とか「この天体が見たい」とかユーザーの目的に合わせた選択肢から、個々の天体をズームできる。なおかつ見ている天体が宇宙の全体の中でどこにあるかという位置を表示する。
まず「X線で宇宙を見る」と題して「すざく」データの可視化を作ったのでこれを発展させていきたい。「あかり」のデータが公開されたら入れていきたいですね。将来的にはJAXAの保有している衛星の全波長データを入れたいし、国立天文台の「すばる」望遠鏡の公開データも載せられるといいですね。波長の違いで見えてくるものが違いますから、比較しながら見ると宇宙の構造を理解しやすくなる。天体の解説もアニメーションなど入れながら、初級者から上級者まで楽しめるサイトにできるといいなと思っています。
JAXA:壮大な計画ですね。
三澤:そう。まるで国家プロジェクトでしょう(笑)。
NASAやヨーロッパ宇宙機関のハッブル宇宙望遠鏡やX線天文衛星チャンドラのサイトは画像がとても探しやすいですよね。また2008年にはグーグル社が「グーグルスカイ」、マイクロソフト社が「ワールドワイドテレスコープ」という天文観測ソフトを発表しました。ソフトウェアの技術開発をしている会社が宇宙のデータを使って競ってPRしている。宇宙の研究機関とIT産業が結びついているんですね。悔しいのは日本ではそのような大型プロジェクトがなかなか動かないことです。
JAXA:どこかがやりそうなものですよね。
三澤:私もそう思ったけれど、どうも大手はやらない。でも日本が宇宙開発を続けていくなら絶対やらないといけないことだと思うので、それに気づいてやらせてもらっているのは、ちょっと自慢ですね。
実は2008年度に国立天文台の科学プロデューサー養成講座を受講しました。私と同じ思いの人はたくさんいて、宇宙の映像を一般の方達に楽しんでもらうにはどうすればいいか模索しています。国立天文台は四次元宇宙デジタルプロジェクト・Mitakaというソフトウェアを、(株)アストロアーツがステラナビゲータという天文ソフトを開発しています。彼らもJAXAの科学衛星データの可視化には期待してくれています。デザイナーやエンジニアが宇宙科学の研究者と共同で開発を進めることで、宇宙を楽しむ人々のすそ野がぐっと広がると思っています。
JAXA:ビジネスとしては今後どういう展開を考えていますか?
三澤:公共のデータを使ってどうビジネスにつなげていくか。2009年度はビジネスモデルを組み立てていきたいですね。自分の会社として具体的には、展示システムで博物館などに導入してもらうようになれば一つのビジネスになるし、ゲーム分野や広告分野などへの提案も考えられる。
でも、宇宙科学用のデータは今、研究用として使う枠組みしかない。商業で使う枠組みすらないのです。そこから始める必要がありますね。
科学館などの啓蒙的利用の促進から、ゲームコンテンツや衛星データを利用した商品開発などの商業利用促進を進める際に、どんな課題があって現状はどうなのか、どう進めればスムーズにいくのか、実際に使う側の方達の意見を聞きながら整備していくべきだと考えています。