宇宙用観測機器を中心に
超小型衛星も製造

明星電気は1938年創業の観測機器・電子システムメーカーだ。かつては日本電信電話公社(現NTT)向けの各種機器や回路の製造が売り上げの主力だったが、現在は気象庁のアメダスや地震警報システムなど、計測技術とデータ解析を組み合わせたシステム製品が事業の中心になっている。

宇宙分野も、同社の売り上げの20%近くを占める中核事業の1つだ。日本の宇宙開発の黎明期である東京大学生産技術研究所の糸川英夫教授が開発したベビーロケット(ペンシルロケットの次のロケット)から日本の宇宙開発に参加している。日本初の人工衛星「おおすみ」にも同社のアンテナ方向性結合器が搭載された。以降、日本の科学衛星、地球観測衛星のほとんどに、同社の観測機器が搭載されている。例えば月周回衛星「かぐや」では、15の観測機器のうち8つを担当した。

最近は、超小型衛星の開発・製造にも乗り出している。これまでに様々な観測機器などを開発してきた経験を生かして、他の衛星メーカーと差異化を図っていく計画だ。

群馬県伊勢崎市にある明星電気の本社工場。宇宙関連機器もここで生産する。

現在開発中の超小型衛星の模型。大きさは50cm四方で、これで実物大だ。

こちらは10cm四方の超小型衛星「WE WISH」の模型。

超小型衛星開発のため、宇宙空間の環境を再現できる直径1.2mの熱真空チャンバーを導入した。

宇宙用の機器はすべてクラス5万~10万のクリーンルームで製造する。写真は日本の宇宙実験棟「きぼう」で使用するデジカメの部品を宇宙用のものに交換しているところ。

光学系の組み立てなど、特に高いクリーン度が要求される作業は、クラス100のクリーンブース内で行う。

高い信頼性が要求されるので、製品は念入りに検査する。左は3次元測定器を使った寸法の検査、右は電気特性の検査の様子(中央・右)。

水星探査機「ベピコロンボ」に搭載する観測機を組み立てる。ベピコロンボは2018年に打ち上げられる予定だ。

打ち上げ時の振動による影響を調べるため、10トン級振動試験機を備えている

ほとんどが手作りの宇宙用機器と対照的に、宇宙用以外の製品の製造はほとんど自動化されている。

明星電気株式会社

本社所在地 群馬県伊勢崎市
設立年 1938年
主な製造拠点 本社工場(群馬県伊勢崎市)
主な製品 気象用ラジオゾンデ、アメダス、地震計、震度情報ネットワーク、防災音声再生装置、宇宙用機器、航空管制装置、水晶水位計など
これまで手がけた主な宇宙機器 準天頂衛星「みちびき」、月周回衛星「かぐや」、宇宙実験棟「きぼう」などの宇宙用カメラ 小惑星探査機「はやぶさ」の蛍光X線スペクトロメータ、衛星用受信機、衛星用高圧電源、宇宙放射線モニタなど
企業HP http://www.meisei.co.jp/

INTERVIEW

インタビュー

アプリケーションを含めたシステムを世界に提供していきます

明星電気株式会社
取締役技術開発本部長 柴田 耕志氏

明星電気は日本の宇宙開発の初期から参加していますね。

1938年に軍用のラジオゾンデによる観測機器を担当したのが当社の事業のスタートです。気球に観測機器をのせて上空の大気の状態を調べるものです。そのまま戦後は気象庁のラジオゾンデを引き受けていました。
 その後、東京大学生産技術研究所でロケットの開発が始まり、ペンシルロケットの次のベビーロケットを上空に打ち上げてデータを測定することになりました。糸川英夫先生が活躍しておられたころです。当社がラジオゾンデの経験を持っていたため、ロケットのデータ送受信機から地上のアンテナまで協力要請がきたのです。
 ラジオゾンデは地上では最高+40℃、上空にいくと-100℃にもなるという環境で機器を作動させなければなりません。当時の日本で、高度30kmという最も宇宙に近い環境で作動する機械を作っていたのが当社だったのです。
 日本初の人工衛星「おおすみ」にも当社のアンテナ方向性結合器が搭載されました。科学衛星では1976年に打ち上げられた東京大学宇宙航空研究所(現JAXA宇宙科学研究所=ISAS)のオーロラ観測衛星「きょっこう」を手始めに、ほぼすべての天文観測衛星、地球観測衛星に当社の観測機器が搭載されています。

小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載されていますね。

はやぶさが訪ねた小惑星「ITOKAWA(イトカワ)」がどのような組成でできているのかを探るため、当社の蛍光X線スペクトロメータが搭載されました。太陽からのX線が「いとかわ」に当たると、違う波長のX線が反射される。その波長を観測することで、いとかわの物質が分かるというものです。
 蛍光X線スペクトロメータによる結果と、はやぶさが持ち帰った極微量の試料の分析結果が一致したため、資料は「いとかわ」のものであると同定できたのです。
 はやぶさにもかぐやにも、X線CCD(電荷結合素子)を使った検出器が搭載されていますし、国際宇宙ステーションの日本の宇宙実験棟「きぼう」では全天X線監視装置「MAXI」が使われています。

宇宙で培った技術が他の分野に生かされることもあるのですか?

例えば当社が理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で開発したX線自由電子レーザー「SACLA」のX線散乱像検出器には、当社が宇宙で磨いてきた技術を応用しています。
 ISASの先生方は常に未知の分野の解明を目指されています。様々な分野で世界一を追い求め続けているのです。
 このため、当社が担当する観測機器も今まで通りということがありません。前回と全く違うどころか、情勢に応じてギリギリの段階まで仕様が変化していくので、再設計と評価を繰り返さなければなりません。
 宇宙用には枯れた技術が使われるとよく言われますが、それは仕様数値の高さよりも信頼性の高さが要求される基本部分の話です。当社の宇宙機器でいえば処理回路は枯れた技術を使っています。ただし、センサ部やその周辺回路については、世界初の観測をするために、最先端技術を宇宙での使用環境に耐えられるか、常に評価しながら使っています。
 最近はコストダウンのため、できるだけ民生品を使おうということになっています。しかしながら、宇宙は気圧、温度変化、放射線、打ち上げ時の振動などの厳しい条件がありますし、部品の取り替えができないので高い信頼性が要求されます。例えば、かぐやには民生用ハイビジョンカメラを搭載しましたが、回路やチップを宇宙用に強化しました。
 新しい技術を評価しながら使ってきたために、当社には技術を宇宙用に評価し、強化するノウハウの蓄積があります。民生品を宇宙用に使う際にも、こうした強みを生かしていきます。

最近は超小型衛星にも進出されましたね。

観測機器などの開発の経験を生かせば、他社と差異化が図れるのではないかと考えています。これまでの衛星はバス機器が基本にあって、それに適合するミッション機器を載せる方式でした。当社はミッション機器のメーカーですから、まずユーザーのミッションありきで1辺50cmの超小型衛星を開発しています。
 2011年5月に、きぼうからの小型衛星放出ミッションとして3つの衛星が採用され、そのうちの1つに当社の提案も選ばれました。衛星名は「WE WISH」。こちらは1辺10cmの衛星で、2012年秋に放出される予定です。
 技術的には、超小型熱赤外カメラの実証などいくつか狙いはあるのですが、地域の技術教育に貢献するというのも目的の一つです。
 2010年に「伊勢崎サイエンス講座」という教育イベントを、地元の伊勢崎市教育委員会、ぐんま天文台と共同で開催しました。当社は小型実証衛星4型「SDS-4」の熱モデルを展示したのですが、小中学生がすごく興味をもってくれました。そのときに「2年ほどしたら伊勢崎の超小型衛星が宇宙に行きますよ」と言ってしまいました。WE WISHが審査に通って本当に良かった(笑)。

今後は宇宙分野でも官需以外の事業を強化するわけですね。

アプリケーションも含めたソリューションを世界に提供していくことを考えています。気象観測・予測というアプリケーションでいえば、宇宙からの気象観測を地上の観測システムと連携させることで非常に有効なシステムになります。こうしたアプリケーションにおける宇宙と地上の連携のノウハウを持っていることも当社の強みですから。アプリケーションの分野は気象だけでなく、防災、環境、水などに広げていきます。
 世界の商用衛星市場では、日本のメーカーはまだ弱い立場です。個々には強い技術を持っているのですが、総合力を発揮できていないのです。
 宇宙開発を支えている企業は大手だけではありません。それぞれ強い専門性を持つ中堅企業もまた貢献しています。大手も中堅も一緒になって強みを引き出すオールジャパンの枠組みができれば、日本の商用衛星が世界で活躍できるようになるのではないでしょうか。

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